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伝教大師の霊木
第三章

[8]前話
「しかしです」
「仏像を彫るとはか」
「そこまでは思いませんでした」
 そうだったというのだ。
「まことに」
「そうでしたか」
「はい、そして」 
 それにというのだった。
「そこまでの方だからこそ御仏も迎えられ」
「この山に寺を開く様に定められたか」
「そうなのでしょう」
 運命、それをというのだ。
「それではです」
「今から彫らせてもらう」
「それでは」
「そのうえで一旦都に戻り」
 仏像を彫った後でとだ、最澄は雉に述べた。
「そのうえでまたこの山に入り」
「そうされてですか」
「寺を開こう」
「それでは」
 雉に約束してだった。
 最澄はその光る木を千手観音像にした、そして雉に一時の別れを告げて都に戻ったがここで他の船乗りや留学生達に言われた。
「いや、これもまた御仏の為されること」
「何と深いものであるか」
「我等も知りました」
「実に素晴らしいものです」
「全くです、拙僧も心から感じ入りました」
 最澄も船の中で述べた。
「ですから必ずです」
「あの山にですね」
「寺を開かれますね」
「そうされますね」
「都を守護する寺と共に」
 こう言ってだった。
 最澄は実際に都に戻って朝廷に全てを話して許しを得てだった。
 次の年に山に入り待っていた雉に笑顔で話した。
「では今からな」
「寺を開かれますね」
「そうさせてもらう」
 こう言ってだった。
 最澄はこの山に御堂を建立した、そして自らの運命の一つを果たしたのだった。
 これが福岡県みやま市にある本吉山清水寺のはじまりである、この昔からある寺が開かれたのにはこうした不思議な話がある。全ては御仏の導きということであろう。


伝教大師の霊木   完


                 2023・4・13
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