第二章
[8]前話
御苑にも国全体にも増えていってだった。
よく育った、日本は何時しか世界第二位の経済大国にまでなり国民生活は豊かになって文明は発展していた。
その中でご高齢になられていた帝は言われた。
「今度の歌会では詠う歌は決めてあるよ」
「そうなのですか」
「もうね」
いつも隣におられる皇后陛下にこう言われた。
「そうしているよ」
「そうなのですね」
「今から楽しみだよ」
吹上御苑の方をご覧になられながら言われた。
「その時が」
「ではその時を」
「待つことにするよ」
「それでは」
皇后はいつもの優しい微笑みで応えられた、そしてだった。
歌会が開かれた、そのはじめは帝が謡われることになっているが。
帝は落ち着いてだ、こう謡われた。
わが国の たちなほり来し 年々に あけぼのすぎの 木はのびにけり」
「この歌は」
「戦後の復興か」
「我が国と私達を謡って頂いたのか」
「そして木はあの木は」
「メタセコイヤか」
「終戦直後に献上されて」
「吹上の御苑に植えられて今は国の至るところにある木か」
多くの者がはっとした、そしてだった。
その歌に深く感じ入った、そのうえで思うのだった。
「そうか、陛下は常にか」
「日本と国民のことを深くお考えであられ」
「その復興を喜ばれ」
「そしてあの木にそれを重ねられているか」
「そうであるのか」
「もうご高齢になられたが」
昭和も六十二年になりだ、そうなられていた。
「今も尚か」
「思われているか」
「そうであられるか」
このこともわかり深く感じ入った、そしてこの歌を尊んだ。
だがこの年の夏からであった、帝は。
お身体を崩された、もうご高齢であられ。
「覚悟はしておこう」
「そうだな」
「その時を」
国民の誰もが思った、そして。
その時が来た、こうして昭和という時代は終わったが。
「陛下は木々を深く愛された」
「メダセコイヤの木も」
「植樹もよくされた」
「植樹祭も」
「ではご生誕の日は決まったな」
「みどりの日にしよう」
「これからはその名前で祝日にしよう」
既にご生誕の日は祝日になっていた、だがそれからもだった。
この名前になり今も国民の祝日となっている、その中にはメタセコイヤも入っている。昭和帝が戦後日本の復興の象徴と見られ愛されたこの木が。
帝の和歌 完
2023・2・12
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