第二章
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「兎角や」
「打ちにくくてです」
「攻略に苦労してますね」
「どうにも」
「ああ、どないしたもんやろな」
岡本はぼやくばかりだった、兎角近鉄は彼を苦手にしていた。そしてそれは他チームも同じであった。
星野は打ちにくかった、そんな彼を見て彼が所属している阪急の監督である上田利治は言うのだった。
「あれや、ピッチャーは球が速くて球種が多いだけやない」
「遅くてもですね」
「それはそれで武器ですね」
「そうなるんですね」
「実際打ちにくいやろ」
上田はマスコミの面々に笑って話した。
「そやろ」
「どのチームもそうですね」
「兎に角苦労していて」
「中々打てへんですね」
「遅いとな」
球速がというのだ。
「タイミングがとりにくい、打とうと待つ間焦りもして」
「そうもなってですね」
「中々打てないですね」
「焦りも身体に出て」
「タイミングを外してです」
「打ち損じますね」
「そや、それもまたピッチングや」
まさにとだ、上田は話した。
「そやからな」
「星野はこのままでいい」
「投げてもらう」
「そうですね」
「そや、先発の柱でやってもらうわ」
上田は笑顔で言った、そしてだった。
星野をマウンドに送り続けた、それは阪急がオリックスとなり監督が代わっていき星野が阪神に移籍してもだった。
マウンドで投げる星野を見てだった、阪神の監督野村克也は笑って言った。
「いや、あいつはああでや」
「いいですね」
「星野は」
「ボールが遅くて」
「それで」
「そや、逆に球が速いあいつはや」
ピッチング練習でも一二〇キロ代の星野を見て言うのだった。
「想像も出来んしな」
「そうですね」
「これからもですね」
「先発で頑張ってもらいますね」
「あれもまたピッチャーの形や」
野村もこう言うのだった。
「球が速い、球種が多いだけやない」
「球が遅い」
「また限られた球種を使いこなす」
「それもまたピッチャーですね」
「そや、それで投げてもらうわ」
こう言って彼も星野をマウンドに送った、彼は阪神でも投げ続けそこでユニフォームを脱いだ。そうして今も球速が遅いピッチャーとして語り継がれている。それもまたピッチャーの一つの姿であると。
遅いボール 完
2023・4・15
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