第一章
[2]次話
遅いボール
阪急ブレーブスのサウスポーの先発投手星野伸之はかなり変わったピッチャーとして知られている。
現役時代は見出しの男と言われ活躍していた近鉄バファローズの監督岡本伊三美はマスコミに苦い顔で言っていた。
「星野はな」
「打ちにくいですか」
「どうしても」
「そうなんですね」
「うちは打線のチームやけどな」
それでもとだ、岡本は苦い顔で話した。
「そやけどな」
「星野はですか」
「打てないですか」
「どうにも」
「実際対戦成績悪いやろ」
岡本はこのことから話した。
「もうそこにや」
「出ていますか」
「星野の打ちにくさが」
「そうなんですね」
「そや、阪急は山田や今井もおるけどな」
エースである山田久志に完全試合をしたこともある今井雄太郎もというのだ。
「一番厄介なんはな」
「星野ですか」
「あの人ですか」
「そや」
こう言うのだった、これは近鉄だけでなく。
他のチームも彼には苦しんでいた、その彼のピッチングはというと。
「こんな球の遅いピッチャーはな」
「他におらへんですね」
「見たことないわ」
岡本は今度は球場内のミーティングルームでコーチ達に話した。
「わしもな」
「そうですね、わしもです」
「わしもですわ」
「あんな球の遅いピッチャーおらへんです」
「一三〇いきませんから」
球速がとだ、コーチ達も話した。
「あんな遅いボールがあるとは」
「思いも寄りませんでした」
「球が速いんやなくてです」
「その逆とは」
「そこでスローカーブとフォークもあるけどな」
岡本は星野の投げる変化球の話もした。
「そのどれも特にスローカーブがな」
「遅いですね」
「スローカーブだけに」
「ストレートよりもさらにです」
「遅いです」
「もう信じられへん位遅いです」
「遅過ぎてや」
星野のボールはというのだ。
「かえってや」
「打てへんですね」
「どうにも」
「むしろ速球派よりも」
「下手な技巧派よりも」
「技巧派の割には球種は少ない」
岡本はこのことをここで指摘した。
「ストレート以外はや」
「そのスローカーブとフォークだけです」
「三つだけです」
「投げる時色々工夫してますが」
「球種自体はそれだけです」
「それでも遅くてな」
投げるボールがというのだ。
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