第百十七話 お巡りさんの名前その十三
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「経験して結婚してな」
「幸せな家庭もですね」
「築けるんだよ」
「そうですよね」
「ただその中で失恋もな」
これもとだ、マスターは咲に遠い目になって話した。
「経験するかもな」
「失恋ですか」
「振られることもな。それで凄い傷付いた人も見たよ」
「そんな人もいるみたいですね」
神戸の本校の話をここで思い出してだ、咲も頷いた。
「トラウマになる位に」
「けれどそれもいい経験にな」
「なりますか」
「その時は地獄見てもな」
それでもというのだ。
「後でな」
「いい経験になりますか」
「活きることだってあるんだよ」
「人生に」
「振られた時は辛いさ」
マスターはこのことは否定しなかった。
「地獄見たって言う人いるけれどな」
「実際に地獄見た人もいますよね」
咲はまた本校の話を思い出しつつ話した。
「失恋で」
「けれどそれでもな」
「失恋も経験のうちですか」
「負けたり挫折したり落ち込んだりもな」
こうしたこともというのだ。
「後でな」
「活きるんですね」
「だからな」
それでというのだ。
「そうした嫌なことを経験しても」
「活かすことですね」
「その時は酒を飲んだり美味いもの食ったり遊んだりしてな」
「忘れることですね」
「早いうちにそうしてな」
そうしてというのだ。
「気持ちを切り替えることだよ」
「そうすればいいですか」
「忘れてな」
咲の言う通りにというのだ。
「そうするんだ、そしてな」
「あらためてですね」
「やっていけばいいさ」
「前向きに」
「そうさ、そうした時はな」
「そうします」
「ああ、お嬢ちゃんもな」
咲もというのだ。
「そうしていってくれよ」
「そうします」
咲はここでは速水のカード、一度恋愛の逆を見たことは忘れていた。だがそれでもだった。
失恋をしても立ち直ればいいというマスターの言葉は忘れないでいた、そしてあの警官の名前を脳裏に刻み込んだのだった。次第に心の中で大きくなってきている彼のことを。
第百十七話 完
2023・7・1
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