第三章 (1)
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ナンスを施され続け、部品が壊れればMTBやロードバイクの部品を無理やりはめ込まれ、ますます正体不明さを増していく、鵺のような自転車。もはやこれは本当にランドナーなのかも疑わしくなってきている。
それでもランドナーとしてアイデンティティを主張し続ける、ボコボコに膨らんだサイドバッグや、荷台にくくりつけられた寝袋の絶妙な貧乏臭さが、乗る者をしてホームレスかと思わしめる。しかも随分前の継承者が、ライトが壊れた際に冗談でくくりつけた懐中電灯が、そのまま引き継がれてしまっている。アンティークの尊厳なんか微塵もない。
そしてこれを引き継いだ部員は、次の継承者が現れるまで、このランドナーでサークルに参加しなければならない。
ならない、というか、せざるを得ない状況になる。
ランドナーが次の継承者を求めるとき、継承者の愛車が「屠られる」。
事故か、盗難か、寿命か…理由は様々だけど、とにかく継承者は偶然の不幸で愛車を喪う。そして、備品貸与の形でランドナーを受け継ぐ羽目になるのだ。それが『呪われたランドナー』たる由縁らしい。
歴代継承者の中には、愛車が潰れた直後、新車を買った人もいたそうだ。しかし新車はものの3日で、愛車と同じ末路を辿った(と鬼塚さんから聞いた)。
それ以来、半ば諦めをもって受け入れられ続けているこのランドナー継承。こいつ自体を屠ってしまおうという提案は、不思議と挙がったことがない。
「…今まで何十台も自転車を屠ってきたランドナーを潰して、無事で済むと思うのか、姶良よ…」
現オーナーは、鬱っ気たっぷりのため息を吐き出して、そう答えた。
そしてここからが、最も恐ろしい話なんだけど……
『呪われたランドナー』を継承した者は、列島縦断の旅に出るしきたりがあるのだ。
あの貧乏ランドナーで3000キロ以上の距離を走破!……死人が出てもおかしくない、無謀旅行だ。そして案の定、ランドナーは毎日のようにぶっ壊れまくるそうだ。近くに部品屋がなくて、半分泣きながらランドナー引き引き十数キロ歩くなんてことも1回や2回じゃなかった、と鬼塚さんから聞いた。事実、列島縦断から生還した部員は、別人のようにメンテナンスの腕が上がっているという……。
「……ランドナー継承も列島縦断もお断りします」
「それを決めるのは俺じゃない」
鬼塚先輩が、窓の外に視線を走らせた。無個性な自転車たちが居並ぶ駐輪場で、ホームレス仕様の『それ』は異彩を放っている。
「…『屠られる』とか言うけど、年に1人くらい、うっかり者が自転車を壊したりなくしたりするなんて、何処のサークルでもあることでしょう?連続して自転車を壊したとかいう人は、よっぽど迂闊だったんですよ」
「…俺も、最初はそう思っていたよ…」
鬼塚先輩は、一瞬にやりと笑うと、再びノーパソに向き直った。
「…
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