第三章 (1)
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「なんですか、改まって」
「…メンテナンスの腕も、そこそこ上がってきたな、姶良よ」
「そんな…まだまだ勉強中ですよ」
「いや、お前の仕事には、高いポテンシャルを感じずにはいられない」
「いえ!断じてそんなことは…」
「謙遜をするな。お前には力がある…次世代のマニア派を束ねていく力が!」
「そんなイヤな力、断じてありません!!」
ふいに外堀を埋めていくように言葉を重ねはじめた鬼塚先輩に、危険な予感を覚えてイスごとあとじさる。
「なぁ姶良よ、お前に折りいって話があるのだが…」
「時期早尚もいいトコです、それだけは勘弁してください!!」
僕の悲鳴にも近い懇願の声に、武藤先輩がいち早く反応して、キノコの山争奪戦から離脱してきた。
「お?鬼塚、とうとう『アレ』を譲るのか?」
「イヤほんとやめてください!僕、ああいうのはちょっと…」
「やれやれ、やっちまえ!『アレ』は早いに越したことはない!」
武藤先輩が野次馬根性で煽りまくると、柚木も首を突っ込んできた。
「姶良なら『アレ』、ぜったい似合うよ!」
「似合いたくないよ!」
「……うぅむ……予感がしてきた……予感がしてきたぞ」
身をすくませる僕の肩を乱暴に掴むと、鬼塚先輩は地を這うような声で宣言した。
「…お前は『呪われたランドナー』を継承する…」
「イヤですよ!!」
…我がポタリング部(の一部)には、代々継承されている自転車がある。
『ランドナー』とは、長距離走行用にフランスで開発され、日本の自転車職人によって独自の進化を遂げていった、アンティーク自転車のことである。
もう一度言おう、アンティーク自転車だ。
今でこそ『自転車界の絶滅危惧種』だの『デコチャリの一種』だのひどいこと言われ放題だけど、昔は、未舗装道路も山岳地帯もものともしない頑丈なボディで人気を博していたのだ。懐中電灯のようなライトや太いタイヤ、いやに立派なスタンドやキャリアなどの、今では冗談みたいな装備も、当時は魅力の一つだった(と現オーナー・鬼塚先輩から聞いた)。でもやがてMTBやロードバイクなどに人気を奪われ、取り扱い店は激減。パーツも続々生産中止となり、いくら頑丈でも、壊すと代わりのパーツが手に入らない、デンジャラスな車種と成り果てた。
だから今では一部の熱心なマニアが、数少ない取扱い店でオーダーメイドで手に入れて、乗りもしないで飾っておく骨董品的なポジションに落ち着いている。
しかし、我が部に伝わる『それ』は、そういう類のものじゃない。
古いのは古いのだろう。50年以上は乗り継がれていると聞いた。正確な年代は分からない。何しろメーカーが不明だから、製造年の見当をつけようがないのだ。自作なのかもしれない。
そして幾星霜にわたり、素人に毛がはえたような部員にテキトーなメンテ
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