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くらいくらい電子の森に・・・
第三章 (1)
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コース?」
キノコの山をぽりぽりかじりながら、柚木は僕のノーパソを覗きこんだ。もう機嫌は直っているようだ。
柚木は例えば、理不尽な手段で先輩にポッキーを取られても、代わりのものが手に入れば、ポッキーを取られた経緯をすっかり忘れて無防備になる。
彼女のそういう部分を、僕はいつも「生き物的にはどうなのか」と思ってしまうが、潔い感じがしてわりと嫌いじゃない。とりあえず、人間が捕食される側の生き物じゃなくて本当に良かった。柚木みたいな子でも、厳しい大自然とかに淘汰されることなく元気に生きていける。
しかし、逆に柚木は『代わるものが手に入らないと絶対に許さない』という一面も持っている。だからこそ、僕はしつこく気になっているのだ。

柚木はどうして、紺野さんを許したのだろう?

紺野さんを気に入っているのは態度から分かるけど、それは「代わるもの」じゃない。いや、むしろ紺野さんが「代わるもの」を差し出したことが、柚木の態度の豹変に関わっている気がする……
そして僕は、一つだけ確信している。
紺野さんが柚木に提供したものは、『物』じゃなくて『情報』だ。
柚木と紺野さんが物陰で何かを話し合っていたのは、ほんの1〜2分。柚木は小さな封筒以外、なにも持っていなかった……MOGMOGを手に入れると同等の、紙切れ1枚分程度の情報、とは一体なんだろう……。
「やだ!ちょっとやめて下さいよ!!」
柚木の悲鳴で、はっとわれに返る。武藤先輩が、再びキノコの山にちょっかいを出し始めたのだ。
「なにをキサマ!先輩命令だ、キノコの山もよこせ!」
「絶対イヤ!近寄らないでよ、このモテない菌!!」
「菌ならキノコは俺の眷属だろうが!その手を離せ、この方向音痴の鉄砲玉が!!」
「方向音痴が関係あるかっ!これ以上食べ物に触れたら殺す!!」
小学生のようにキノコの山を奪い合う二人を尻目に、鬼塚先輩が再び画面に向き直る。
「…柚木も放っておけばいいのに。武藤のアレは、気になる子に意地悪したくなる小学生と何も変わらんというのにな、姶良よ」
そういいつつ、柚木から巻き上げたポッキーをちゃっかり自分の物にしている。彼らが小学生なら、この人は中学生だ。僕は適当にあいづちをうつ。
「…ですよね。そんなに気になるなら優しくして距離を縮めるとか…。」
「『いい人』というのも、なかなか救いがたい立ち位置だがな…」
僕のことを言われている気がした。
「分かってますよ。…でも面倒じゃないですか、駆け引きとか」
「あぁ…ギャルゲーのように、ひたすら優しさの積み重ねで女が落ちてくれるなら、俺達ゃどんだけモテモテだろうな、姶良よ…」
「空しいこと言わないでください…」

しばらくぼんやりと宙を見据えていた鬼塚先輩の視線が、ふいに画面に戻った。
「本当に、良く出来たコースだな」

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