第三章 (1)
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いといったら、笑うか」
「……もうやめましょ、そういうの。……あの件、忘れたんですか」
今年の夏頃、誰かの提唱で始まった『マニア派おしゃれ化計画』を思い出した。
「インテリな俺達が、おしゃれすれば鬼に金棒じゃね?」をスローガンに誰ともなく始まり、計画段階では異様な盛り上がりを見せた。そして次のサークル会議で、全員一斉おしゃれデビューという流れになり、めいめいの本気モードで集合することになったのだ。
――今にしてみると、正常な判断力を喪ってたとしか思えない。
その日、僕は少し遅れて会議室に着いた。新品を買う余裕なんてないので、街乗り用に一本だけ持っているクォーターパンツに、まだヨレてないTシャツを合わせただけの簡素な『本気モード』に落ち着いていた。どきどきしながら室内を見回すと、定位置となっている部屋の片隅に、マニア派の面々が暗い目つきで腰をおろしていた。
…全員、おろしたてと思われるラコステのポロシャツに、アメ横で買ってきたと思しきシルバーのネックレスをぶら下げていた。
「…おう、姶良よ」
恐る恐る近づくと、鬼塚先輩が僕に気がついて顔を上げた。軽く会釈をすると、そのまま視線を下半身に落としてみた。これもまた、全員似たようなバミューダで統一されている。…いや、これ全員同じバミューダだ!しかも普段すねを出し慣れてないひとたちが全員一斉に出したものだから、予想以上にすね毛密度が濃くて不快指数が高めな感じだ。変な臭いがしそう。沈んでいるところを本当に申し訳ないけど、僕もできれば近寄りたくない。
「…なんすかこれ」
「…元凶はこれだ、姶良よ」
鬼塚先輩に手渡された、おしゃれ街乗り派御用達の自転車情報誌を開く。巻頭に掲載されているチョイ悪な男性モデルが、ルイガノの街乗りバイクを背に、ラコステのポロシャツをざっくりと着こなし、クロムハーツのシルバーを胸元にチラ見せしつつ、定番のバミューダですっきりとまとめていた。金髪の外人さんだから、すね毛はあまり目立たない。
「あの…全員、まっさきに巻頭の外人に飛びついたんすか」
「俺達おしゃれ初心者に、吟味をする余裕があると思うか、姶良よ……」
「そう、ですね」
「……なぁ、姶良よ。俺、こうなってみて、つくづく思ったんだけどな」
普段無口な鬼塚先輩が、あえて皆を代弁するように口を開いた。
「すね毛は、思いつきで出すもんじゃねぇな……」
鬼塚先輩の口の端に、自嘲的な笑みが洩れた。それは次第にくっくっく…という低い笑いへと変わっていき、その笑い声は、徐々に回りに伝播していった。
「ひっひっひ……」
「いっひっひっひっひ……」
「くっくっくっ……」
「あっはっはっはっは!!」
全員の引き笑いが合流し、やがて互いの肩を叩きながらの不気味な大哄笑へと発展していった。そんな僕たちを、不審者を見
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