壱ノ巻
毒の粉
5
[1/7]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「何奴、止まれ!」
「いや待て!あれは佐々の…高彬殿だ」
「そんなこと言われて止まる奴いないっての」
ばらばらと出てくるおっさんたちを尻目にあたしはぺろりと舌を出した。
「捕えろ!」
一人ひとりに説明している時間なんてあるわけなく、天地城に明るい高彬を盾にして若殿がいるところへ強行突破している。
いつもはなよっとしている高彬も、さすが自らの仕える若殿の一大事ともなれば顔つきから違う。
「火急の時!道をあけられよ!」
一喝で戸惑っているおっさん達を竦ませる。
走って、蹴散らして、走って、飛び込んだ先の部屋。開いた襖の先の上座に、驚きで強張った顔の発と若君がいた。
ああよかったまだ無事だ…。あたしはほっと息をついた。
若君は中腰で、腰の刀に手をかけている。
横には転がった杯と、発の手には提子がある。
発がぼろぼろのあたしを見留めた途端、それとわかるほどに青くなった。震えた唇のまま、ヒステリックに叫ぶ。
「だっ、誰か!あれを、あれを殺してっ!いますぐに!」
殺してと。まぁ、さっき屋敷で死人に口無しと殺したはずの『石』がこうして若殿との朝餉の場に現れたんじゃそりゃあ驚くわよね。でも、そんなこといきなり喚き散らしたら自ら疑ってくれと言っているようなものよ。
あたしは構わずずかずかと上座に歩み寄った。
「無礼な!切って捨ててくれるわ!」
「よせ!手を出すな!私の知人である!」
突然の侵入者に、周りが騒然となって、誰何の声と、刀を抜く音が響いたその時、そう若殿が叫んだ。
あたしは目を見張った。
えっ、鷹男!?なんで!?
前に会った時よりだいぶ上等な衣を纏って、流していた髪もきっちりと結い上げてはいたけれど、目の前の『若殿』の座るべき上座に座っている人、それは間違いなく以前天地城で会った鷹男だった。鷹男も驚いてあたしを見ている。
あたしははっと気がついた。もしかして、鷹男は若殿の身代わり?
「はやくっ、はやく殺して!はやく誰か!」
みな刀は下げないものの、斬りかかってくる者もいない。あたしはそのまますっと発の目の前に立った。
「なぜ…おまえここに…死んだ、筈では…」
発の震える唇から、呻くような声が漏れる。
「お生憎サマ。こうして生きてるわよ」
高彬がいなかったら死ぬト
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ