壱ノ巻
毒の粉
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すね」
「若殿!意味がわかりかねます!」
あたしは思ってもみない言葉にぎょっとして悲鳴のように叫んだ。
ちょっとぐらい思い知ればいいなんて気持ちはぶっとんで思わずまわりを見渡せば、あたしよりも眼ん玉が飛び出しそうなくらい驚いている、家臣。
あたりまえだ。それなりの影響力を持つ前田家のたった一人の姫を主家である織田家の嫡男が本当に妻取るだなんてことになったら…!
今の世は政略結婚が当たり前。家同士の関係が重んじられ、仲の悪い家に姫を嫁がせて絆の補修または強化をするというのが普通。服従の意や人質のかわりに姫を差し出すってこともあるんだけれど。
だから織田と前田が仲が悪ければそれも頷けるけれども、関係は良好で別にあたしが嫁いで関係改善だとか、はたまた人質になんてなる必要なんてなし。兄上も父上も造反の意はこれっぽっちもないし。織田家も前田家を信頼してくれてるし。
正直今あたしが織田家に嫁いでもなーんの利益もないのだ前田家にとって。
それなのに妻取ろうとするのは、ただ主家であるということにふんぞり返った横暴でしかない。勿論、本当に織田家がそれを望んでしまえば家臣である前田家に否はないんだけどね…。
「わかりませんか?」
「…………」
鷹男はじっとあたしの目を見た。
「姫」
追いうちのように優しく声がかかる。
このっ…!ワガママ鷹男め…!
と怒っても結局あたしが折れるしかないのだ。周りのおじさんたちの胃が裂けないうちに。
あたしはふぅとため息をついた。
「…強情を張ったことは謝ります。ですが宗平様も酷いです。どうしておっしゃってくださらなかったのですか!」
「申し訳ありません、姫。決して騙していたとかそういうことではないのです」
「…謝らないでください。若殿に頭を下げさせたなんてことが父上に知られれば私はまた説教を受けなければならなくなります」
「では許してくださいますか」
「許すも許さないもありませんよ」
「それは許していただけると受け取ってよろしいですか?とりあえず部屋に入りましょう。怪我の手当てをさせてください。その怪我は私のせいです。…髪も、ざんばらになってしまいましたね…」
そう言って、鷹男はあたしの髪を一筋、掬って、くちづけた。
「おやめください宗平様!」
「鷹男、です姫。姫にはそう呼んでいただきたい」
「ですが、っ」
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