壱ノ巻
毒の粉
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じると!」
「そうだ発。そなたは最後まで柴田権六道重が娘でしかなかった。私の妻ではなく」
「そん、な」
発の目から涙があふれる。瞳が絶望に染まる。
その瞳が未だ鷹男に片手で抱かれたあたしをとらえた途端、燃え上がるようにつりあがった。
「石っ!おまえ、こんなことをして、ただで済むとは思っていないだろうね!絶対にお父様に言って殺してやる!身分もない孤児のくせにこんなところまでおめおめと乗り込んできて、拾ってやった恩を忘れたかっ」
口封じに罪なすりつけて殺そうとしといてよく言うわ!
「孤児…?」
鷹男が不思議そうにあたしを見た。
孤児、ですって?身分のない?
あたしはふっと笑うと鷹男の胸を押しやって両腕を押さえられている発に向き直った。
「私の真名は前田一太忠宗が娘、瑠螺蔚。」
その場がしん…とした。
発の瞳はこれ以上ないくらいに大きく見開かれている。
前田家、と震える唇が声なく紡いだ。
「若殿の命により常日頃不審な動きしていた柴田家に密偵として入り込んだまで。うまく事が運び、貴方方がこうして無実の者に罪を被せて殺そうとするような義も忠もないものだということは私の恰好を見ていただければ誰の目にも一目瞭然のはず。」
あたしは自分の血のにじみボロボロになった衣を指した。
「そ、んな、なぜ…姫自ら」
「ただ私が天に背くものを見過ごせなかっただけのこと。発姫。魂の半身とも言うべき夫を弑そうとした行いを自らの身を以って悔いるがいい!」
発の顔がゆがんだ。一気に瞳が憎しみで染まり、火事場の馬鹿力とでもいうのか、大の男に掴まれた腕を振り払ってあたしに向かって一直線に走ってきた。
「ああああああああああっ!」
すっとあたしと発の間に高彬が割り込み、その手を取って捻りあげた。捻られた発の手には、短刀が握られていた。
ぎらぎらと光る瞳は高彬に腕を掴まれても、あたしから離れない。
「連れて行け!」
鷹男が鋭く叫ぶと、高彬を初めとする侍従が、発を取り巻いて、連行していった。
ついでとばかりに手を振ると2人ほどの武を残して皆さがっていった。
「鷹男」
「…姫」
あたしがくるりと鷹男を振り返ると、彼は打って変わった低い声で唸った。
「これは、一体どういうことですか。私は、前田の瑠螺蔚姫にこ
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