第二部 1978年
迫る危機
危険の予兆 その5
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いる!」
ベアトリクスとアイリスディーナは、とにかく過敏な眼いろだった。
だが、さすがにマサキは、何気ないふりを振舞いながら、
「どうした」
と、落着き払っていた。
「主人から電話が来てるの!」
ヴァントリッツに電話がつながった時、ベアトリクスは偶然起きていた。
ユルゲンの話を聞くなり、アイリスを起こして、急いで台所まで来たのだ。
今にある電話機の傍まで行った後、受話器を取り、
「ユルゲン、どうした。俺だ、木原マサキだ」
いつにない真剣な表情で、ユルゲンに尋ねた。
ユルゲンは一呼吸おいてから、
「未確認情報だが、ソ連がロケットを上げた。
発射場所はスヴォボードヌイ……シベリアのアムール川流域で中ソ国境地帯だ」
「スヴォボードヌイ」
マサキにも、初めて聞く名前である。
それは無理からぬことであった。
その場所は、前の世界でさえ、ソ連崩壊まで完全に隠蔽された閉鎖都市。
CIA発行の航空写真では判明していても、どのようなものがどれだけあるかは秘中の秘だったからだ。
「場所の事はどうでもいい。お前が話せる限りのことを話せ」
「プロトンロケットではない新型だ……今はこれしか言えない」
そう言って、受話器をベアトリクスに渡した。
夫婦であれば、積もる話もあろう……
マサキなりの最大限の気づかいだった。
国際電話はたちまちシュタージの知るところになった。
マサキ番のゾーネ少尉は仮眠から起きると、通信室に入った。
複数並ぶモニターの電源を、一斉に付ける。
椅子に座って、国際電話の内容を傍受していると、後ろから声がした。
「なるほどな。ずいぶんと金のかかった部屋だ」
ゾーネは後ろから入ってきて感悦をくり返しす男に、驚愕の色を示す。
「誰だ、お前」
「マネージャーさ、木原先生のな」
白銀は、軽く笑っていなした。
「たまには、木原先生の特別講義を聴講させてもらわないとね。
あんただって、そのつもりなんだろう」
と、本音を吐いたときの、ゾーネの顔つきは、ひどく複雑だった。
「美男好きのどうにもならない諜報員でも、将校は将校だもんな」
その瞬間、瞋恚をむき出しにしたゾーネは、白銀のネクタイをつかんだ。
「な、何だと」
白銀は、一瞬驚くも、ゾーネの腕を逆につかみ帰して、興奮するゾーネを抑えた。
「まあ、まあ、怒るなよ。本当のところ言われてさあ」
そのうち、白銀ともみ合いになりながら、ゾーネは、
「出ていけ、警備兵をよぶぞ」と叫んで、電話機の方にかけていった。
白銀は背広の上から来ていたオーバーコートを直すと、
「連れないね」
と、ドアの方に下がっていった。
慌てたゾーネが、受話器を持ち上げると、
「分かった。分かったよ」
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