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冥王来訪
第二部 1978年
迫る危機
危険の予兆
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日本国憲法24条によって婚姻の自由は、両性間の合意にのみゆだねられている面が大きかった。
慣習として、外国人との結婚をした治安・法執行機関関係者は、出世を絶たれた。
無論、マサキもそのことを知らぬわけではない。
 
 日本帝国に調略工作を仕掛ける面から言っても、適当な武家や素封家から娘を妻に迎え入れる方が安全なのは知っていた。
ただ、東ドイツに工作拠点の一つを作る点から、アイリスディーナとの関係を利用するのも悪くない。
そう考えていた面もある。

 議長の爛々(らんらん)とした眼が、マサキの顔や姿を見つめ合った。
瞬間は、やはりどうにもならない。
相手の意識に圧しられて、顔のすじも肩の骨も、こわばりきったままだった。 
「形だけの結婚式でもいいんですよ、博士。
そして、いつでもアイリスディーナの所に来てやってください。
但し、このおままごとに関しては決して口外しないと……」 
 それに対して、マサキは十分心が動いた。
その証拠に、応じる色を見せて来た。
「内縁関係……、妾なら考えてもやらんでもないが」

 マサキのつぶやきを聞くと、議長は相好を崩した。
「そう。博士のその言葉を待って居りました」
「うあっ……あ」
 綸言(りんげん)、汗のごとし。
マサキは、自分の失言に、もう全てが、どうでもよくなり、深い後悔の念に苛まれた。

 車窓から見えるのは畑や森林、そして晴れ渡る空に、豊かな自然。
冬の澄み切った空気で、遠くまで一望できる。
 マサキは、後部座席に寄りかかりながら、呆然とその景色を見ていた。

 やがて運転手が、
「あと5分ほどで着きます」と告げると、目的地が見えてきた。
金網のフェンスに囲まれた深い森で、『野生生物保護区』、との看板も見える。

 国家人民軍の勤務服に似た開襟式のジャケットに乗馬ズボン、ワイシャツに黒のネクタイ。
鉄兜に自動小銃を持った一群が近づいてくる。
 彼らはシュタージの武装部隊、フェリックス・ジェルジンスキー連隊の兵士であった。

 車は、キノコ型の守衛所の前に一時停止する。
運転手が鑑札を見せると、兵士たちは敬礼をして、門を開けて、車を中に招き入れた。
 深緑の中に、ぽつぽつと建物が点在している。
薄暗い森林の中に、突如として、閑静な住宅街が出現した。
 マサキが車を降りるなり、背広姿の老翁が近づいてきて、住宅に続く道を案内される。
給仕と思しき老人は、矍鑠としており、一般人でないことは察せられた。
 議長の別荘は、2階建てだった。
15部屋のある戸建てで、広さは、180平方メートル。
 木漏れ日に佇む姿は、ベルリンのパンコウ区の喧騒とは一線を画していた。

「アーベルの家はここから2軒先にある。
もっともアイツは、ベルリン市内で
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