第二部 1978年
迫る危機
危険の予兆 その3
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イリスディーナに向かって、英語訛りのドイツ語が帰ってきた。
「邪魔してるぜ」
ベアトリクスの脇に座るマサキは、立ち上がると、
「俺についてくる意思はあるか。
もしお前がその気があるのなら……
少なくとも、今よりは自由で刺激的な暮らしをさせてやるつもりだ」
用ありげな使用人の一人が、何気なく、ひょいとドアを開けて入りかけた。
だが、使用人でさえ、顔を赤くして、あわてて引き下がってしまった。
「そのままでいいから、聞いてくれ。
俺はゼオライマーのパイロットだ。
今のままでいれば、俺とお前との関係はどうあがいても縮まるまい。
一生、俺の事を名前で呼ぶ関係になれず、先生とか、博士と呼ぶ関係に終わる」
マサキも、また若い一人の男だった。
その性も逞しく、悶々とアイリスディーナで思い悩んでいたほどである。
体の奥底から這い上がってくる欲望に触発され、理性が飛ばないように抑えるだけで精一杯であった。
前世では、絶対に手に入れられないような美少女に心を握られているのだから、猶更である。
「アイリスディーナ。兵隊の道を捨てる覚悟はあるか」
帝国陸軍に籍を置いている以上、外国人との結婚は、いろいろな影響を与えないわけがない。
こんな真似はいけないと思いながらも、自分の心には抗うことが出来なかった。
ゲストハウスの一室に設けられた簡素な祭壇。
黒の長いガウンを着た男が、
「これより結婚の手続きを進める」と、宣言した。
そうすると、タキシード姿の議長が、滔々と東ドイツの民法典に関して説明を始めた。
立会人を務めるシュトラハヴィッツ中将は、大社交服と呼ばれる室内用の礼装だった。
金色の飾緒と肩章のついた象牙色の両前合わせのジャケット。
四つの大きなメダルを胸から下げ、ヤタガン型の短剣を履き、赤い側線の入ったズボンに黒革靴。
同じ格好をしたハイム少将と共に、議長の脇に起立していた。
「木原マサキさん、貴方はアイリスディーナ・ベルンハルトを妻として永遠に愛することを誓うかね」
「……」
どうしてこんなことになってしまったのか。
ついさっきまでは、事実婚でいいと言っていたはずなのに……
キツネにつままれた気分のまま、マサキは渋い顔をするしかなかった。
「なあ、坊主なんて呼んで大丈夫か。アイリスの今後をどうする。
東ドイツでは、公務員がキリスト教を信奉すると差別されると聞いたが……」
議長が、不敵の笑みを浮かべながら、
「木原先生、このお坊さんは、私の古い友人なのだよ」
何のはばかりも屈託も、彼にはない。
議長は、マサキのやや小麦色に日焼けした顔をのぞきこんで、
「それに、わが民主共和国では一応信仰の自由は認められています」
と
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