第百十五話 知りたいことその五
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「終わってないって思ってもな」
「それでもですか」
「実はってことがな」
「あるんですね」
「ああ、終わってるなら読めるだろ」
「安心して」
「結末まで読まないとな」
さもないと、というのだ。
「やっぱりな」
「しっくりこないですね」
「そうだろ」
「読むなら」
「それでな」
「金色夜叉はですね」
「終わってるからな」
今話した通りにというのだ。
「安心してくれよ」
「わかりました」
「読むにしてもな」
「その完結まで、ですね」
「読めるからな」
「それだけで違いますね」
「明暗なんてな」
夏目漱石の最後の作品である、この作品についてもマスターは咲に対して話していくのだった。
「もういよいよな」
「終わるっていう時にらしいですね」
咲も言った。
「私あの作品読んでないですが」
「終わってないからか」
「いえ、まだ漱石あまり読んでないんで」
「それでかい」
「坊ちゃん位は読みましたが」
それでもというのだ。
「あまり、なんです」
「それで明暗もか」
「明暗は読むつもりはないですが」
「終わってないからか」
「はい、ですがいよいよですか」
「ああ、終わりが見えてきてな」
そうした展開になってというのだ。
「いよいよって時にな」
「漱石さんが亡くなって」
「そうなってな」
胃潰瘍が悪化して急死したのだ、何でもパーティーに呼ばれて好物のピーナッツを食べ過ぎたという。
「未完だよ」
「それは残念ですね」
「まあヒス持ちでDV旦那で困った人でもあったけれどな」
「それとんでもないですね」
長男さんをステッキで殴り回したり奥さんにかなり暴力を振るったという、二十一位世紀なら確実に社会的責任を追及される事態である。
「暴力振るうなんて」
「まあ昔はそれでもな」
「大丈夫でしたね」
「今でも学校の先生が暴力振るっても問題にならないしな」
「それはもっとおかしいですよ」
「けれど事実だからな」
このこともというのだ。
「まあな」
「昔は、ですか」
「それでもいけたんだよ」
漱石の様な暴力を振るってもというのだ。
「そうした時代だったんだよ」
「そういうことですね」
「ああ、けれど作品はよくてな」
「その作品がですね」
「いいところで未完なのはな」
それで終わったことはというのだ。
「残念だよ、けれど金色夜叉は終わってるからな」
「読んだらいいですか」
「お嬢ちゃんが読みたいならな」
それならというのだ。
「そうしろよ」
「わかりました」
咲もそれはと頷いた。
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