敢闘編
第七十話 挟撃 U
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艦橋内が慌ただしくなった。静かで、誰も走り回る者などいないのだが、空気だけがせわしなく流れている。俺の横ではロイエンタール、ミッターマイヤーの両中佐が居住まいを正していた。意見を求められるか具申でもしない限り、参謀は観戦者の様な者だ。この二人が意見をしないという事は負ける心配はないという事だろうか。そう思っていると、ロイエンタール中佐の微かに笑う色の違う両目が気になった。
「何か気になるのか?中佐」
俺の問いにミッターマイヤー中佐も興味深げにロイエンタールを見つめている。
「いえ、ボーデン方面が気になりまして。敵の指揮官が常識に囚われない果断な者であれば、一時的にそのままボーデンを突破、ヴィーレンシュタインから此方の後背を遮断するのでは、と思ったのです」
ロイエンタールの顔はもう笑ってはいなかった。ミッターマイヤー中佐も同意の声をあげたが、彼の方は半ば同意といった様子だ。
「確かにな。だが奴等には此方の戦力配置が判らない筈だ。闇雲に前進するなど有り得るのか」
「そうだな。だが考えてみろミッターマイヤー、ここフォルゲンでは戦闘が行われている。ボーデンに展開した叛乱軍は迷っている筈だ。なぜ此方には敵が来ないのか、と。疑心暗鬼のままなら命令を守ってボーデンから動かないだろう。だが叛乱軍が、我々の他に敵にはまとまった機動兵力は無いと看破したなら?」
「見破られるかな?」
「だから言ったろう、敵の指揮官が常識に囚われない果断な者なら、と。それに奴等にはイゼルローンや叛乱軍の領域から増援がある筈だ。一時的にボーデンを空にしても増援がそれを埋める」
ロイエンタールの読みはおそらく正しい。何故なら俺もそう考えるからだ。だが俺は敢えてこの策を立てた。作戦実施の条件は『叛乱軍にヴィーレンシュタイン進出の動きがある場合は作戦を中止する事』だった。ロイエンタール、ミッターマイヤーの二人はこの事を知らない。信用していないから言わなかったのではない。賭けの様な作戦だからだ。参謀の任務は指揮官を補佐しその企図する所を成功たらしめる事だが、無謀を諫めるのも参謀の役目だ。俺の作戦案を最初から知っていたら反対していただろう。
二人が俺を見つめる。最初から無理な話だった。出師目的が多分に政治的過ぎたのだ。アムリッツァ、イゼルローンを奪回するなら、叛乱軍が行った様に余程の大軍を催さねばならない。しかし出撃した我々の兵力は、元から叛乱軍七個艦隊を撃破するにも足りないのだ。であれば奴等の兵力を二分させ、そのどちらかを撃破する事に全力をあげた方が現実的だ。そう考えた末のこの作戦だった。ボーデン展開する叛乱軍に対応する戦力を回していたら、逆にこちらに余裕がない事を敵に教える結果になりかねなかった。であればボーデンには監視と通報のみの機能を残し、戦力は敢えて何も送らない事で敵の疑
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