暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
迫る危機
危険の予兆 その4
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教育だけではないことは、その虚ろな目つきからわかっていた。
 軍人の、いや、女の直感だろう。
何か麻薬をやっている。
 そういう目で見れば、ソ連赤軍兵士の虚無感に、そのことがありありとうかがえた。
しかし、情報不足の軍学校での生活の中で、中々真相はつかめないでいた。
「ソ連で実用化された洗脳用のたんぱく質さ」
ベアトリクスの勢いに気圧されたマサキは、しぶしぶ答えた。
「これの恐ろしいところは、無色透明、無味無臭。
ヘロインより簡単に合成出来て、検査試薬に反応しない」
 考えるだにおぞましい光景だった。
ベアトリクスは込み上げる怒りをもてあまして、コップをもてあそび続けるしかなかった。
「だから、ソ連では水源地にこれを散布する計画を持っていた」
今一つ話を信じられない様子のザビーネが、
「なぜ、そんなものを用意したのですか」
と問いただしてくると、マサキは不気味な笑みを浮かべて、
「ソ連指導部は、そうまでせねば生き残れない。
奴らが、そうと思ったからと、俺は思っている」

 アーベルが、まるでとがめるような声音でいった。
「待ちたまえ、木原君。君の説明は難しすぎて、意味不明すぎる。
説明とは、女子供でも分かるようにしなくてはだめだ」
困惑顔をするザビーネやアイリスディーナの方を向くと、
「いいかい。
BETAが侵攻してくる前のソ連にも、コーヒー、オレンジやバナナがあり、娯楽もあった。
車や被服にしても、東ドイツに少し劣る、戦前のそれとさほど変わらない生活をしていた訳だ。
それがBETAの侵攻で、代用食材しか手に入らなくなり、制限されていた国内移動がさらに制限された。
平時の記憶を保ったままでは、戦時体制に耐えられない。
そういうことで、政治局はある決定をした。
それが、指向性蛋白による記憶操作という政策だよ」

 それは、まんざらでたらめという感じでもなさそうな話具合だった。
アーベルの事なので、恐らくソ連経由での話であろう。
 だが、そこは余程割引いて聞く必要がある。
マサキは感じながら、耳を傾けた。
「指向性蛋白は、偶然発見された代謝低下酵素によるものだ」
「代謝低下酵素?」
「ああ。国連の秘密計画であるオルタネイティヴ2。
1968年に開始され、BETAの地球降下まで実施された計画で、BETAの捕獲・解剖によって調査分析を行うものだ。
BETAが、炭素生命体であることはわかったが……」
「その際に、代謝低下酵素を……」
「そうだ。
ソ連科学アカデミーではその基礎代謝を低下させる酵素に早くから注目し、特殊な蛋白質の抽出に成功した」
「それを使って、死を恐れぬ兵士を作っていたと……」
「ああそうだ。
ソ連では、生後間もない乳幼児を軍の保育施設で養育することを決定した政治局
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