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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その7
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エサを渡すがごとく、パンを投げてきた。
店員の愛想の悪さと、乱暴な対応が、非常に気になった。
 東洋人の事を、見慣れぬのもあろう。
だが、カシュガルハイヴの構築を許してしまった支那に、よからぬ感情を持っている。
その様なことも、今回の態度の一因ではなかろうか。
もっとも、社会主義国特有のサービス精神の欠如もあろう。
 ここで、ドレスデン名産のひとつである、バームクーヘンを買い求めた。
だが、卵や牛乳の供給量の関係で、週に1度しか作れないと聞いたとき、マサキはあきれていた。
仮に売っていたとしても、朝から行列ができて、昼には売り切れてしまうほどだという。
 そしてバームクーヘンは、東ドイツでは高級菓子の部類であった。
クリスマスや、慶事での贈答品の習慣が根強かった。
西ドイツへの贈答品として売られて、ほとんど東ドイツ人は食べないと言う事だった。


 さて。
午後、マサキはシュトラハヴィッツ達の下に出向いていた。
彼等と共に、今後の事を話し合っていると、不意にザンデルリングが現れた。
 何やら重たげに、箱を抱えてきて部屋に入ってきた。
いきなり段ボール箱を置くと、そのまま帰ってしまった。
不思議な行為をするものだと、マサキは訝しんだ。

 ザンデルリングの持ってきたものは、資料だった。
ロシア語とドイツ語からなり、A4判の300枚入りのファイルで、25冊。
 一番古いものは1957年からの物で、最新のは1977年だった。

 資料を手に取ったハイムは思わず、
「完璧だ……完璧に資金の流れが解明できる。
この資料だけでも、毎年、2億マルクの金がシュタージを通して、KGBの手に渡っている」
(1978年の1ドイツマルク=115円)
さっきとは打って変わった熱心さで資料を見入るシュトラハヴィッツは、やや興奮気味に答えた。
「それにしても、ザンデルリングは見事なものだ。
この資料から完全に名前を消している」

 マサキは、ちょっと考えて。
「問題はそこだ……」
「というと……」
「この資料を西ドイツなり、米国に持ち込んだにしろ、どこから出たかが問われる。
ザンデルリングが名乗るわけがない。
この資料から名前を消したように、一切自分に関わりのないと、否定するのは目に見えている」
と、マサキは語尾に力をこめて、もう一度、
「はっきりとした出所が分からなければ、根も葉もない怪文書として切り捨てられる」
 五分間ばかり、沈黙の時間が続いた。
互いの胸の鼓動が聞こえるのではないかと思えるぐらい、静かな一刻(いっとき)であった。

 そのうち、マサキの監視役として来ていたゾーネが入ってきた。
灰色の開襟制服に、ベルトにマカロフ拳銃という厳めしい巡察の格好で来て、
「アクスマン少佐の遺品から
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