暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その7
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 マサキは、その夜ドレスデンに泊まった。
本当ならば、日帰りでベルリンに帰るつもりであったが、夜10時を過ぎてしまったので急遽泊まることにしたのだ。
 ホテルの一室は、シャワーと簡単なベッドだけ。
ルームサービスも台所もない簡単な宿泊施設で、冷蔵庫すらないのには驚いた。
ただ、シュトラハヴィッツ将軍が無理を言ってくれたおかげで、市内で一番高層を誇るホテルに宿をとれたのだ。

  コーラの入ったグラスを片手に、地方都市の夜景を眺め、次の方策を一頻り思案していた。
おもむろに立ち上がると、念入りに部屋中を見て回った。
 ソ連をはじめとする東側諸国では、外人用ホテルに盗聴はつきものであった。
 いや、同国人であっても、監視の目を緩めない。
硬直したスターリン主義の支配制度の中にある、東ドイツでは、より顕著であった。
 マサキは、ベッドわきにあるラジオや室内電話、電球などをくまなく調べる。
ソ連では、マイクロ波を用いた優れた音響装置による盗聴器があるためだ。
衛星国であった東ドイツで使わない理由はない。
 そして、このドレスデンの町は、KGBの秘密基地があった場所である。
何事も、用心して足りぬことはない。
 
 そうこうするうちに、壁掛け時計の中に怪しげな部品を認めた。 
『やはり、シュタージは腐ってもシュタージなのだな……』
そっと壁時計を戻した後、次元連結システムの子機を取り出して、起動する。
 あらゆる電波や熱線を遮断するバリア体を、部屋中に張り巡らせた。
これで、ひとまずは安心だろう。
そう考えながら、鞄の中から、ある道具を取り出した。
 それは、携帯式の通信機器である。
テーブルの上に置かれた機材の形状はノートパソコンに似ており、受話器がついていた。
折りたたむと、縦幅21センチ、横幅30センチ強で、A4判ほどの大きさだった。
 
 マサキは、通信機を起動させるなる。
画面に映る美久に向かって、静かに、
「美久。今からデーターをゼオライマーに送る」
美久は、画面越しに部屋中の様子をうかがっている風だった。
「はい」
「映像と音声は、カセットテープとビデオに焼き直しておいてくれ」
 そういうと記録装置の端子をつないだ。
情報量にして、500ギガバイト。
次元連結システムのちょっとした応用で、一時間もあれば、すべて送り終わるであろう。
 懐中より煙草を取り出して、火をつける。
悠々と紫煙を燻らせながら、
「あと、キルケに連絡を入れてくれ。
西ドイツのメディアと接触を図りたい。
なるべく早く、と言ってな」
 そういって通信を切ると、ベットに横たわる。
「あとは、この木原マサキの意志と覚悟だけか……」 
そう意味ありげに呟き、愛用の回転拳銃を抱えたまま、眠りに就いた。



[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ