第三章
[8]前話
「とりわけ」
「だからそのことは」
「何でもないですか」
「民を思ってであって」
「そう言われるからこそです」
ここでもだ、業平は親王に微笑んで話した。
「皆親王様をです」
「慕ってくれるか」
「そしてその徳は後世にもです」
「菩薩が言われた通りにか」
「語り継がられるでしょう」
「そうなるか、しかし私は民が助かって何よりとな」
またこう言われる親王だった。
「思っているだけだ」
「そうした方だからということです」
「そういうことか」
「これからもお仕えします」
業平も他の者達もだった。
帝になることが出来なかった親王の傍で仕えていった、そして後世でもだった。
「全ては親王のお陰」
「今漆が日本にあるのも」
「親王に感謝しないとな」
「そうだな」
こう話してだった。
日本漆工芸協会は親王が菩薩と会われたその日を定めた。
「漆の日だ」
「この日に定めよう」
「十一月十三日をな」
「そうしよう」
「是非な」
「親王様が菩薩と会われた日をな」
これが一九八五年昭和六十年のことだった、それで極楽でご覧になられた親王は大いに驚かれたが。
その親王にだ、極楽でも傍で仕える業平とそれに親王の願を聞き届けた菩薩が穏やかに言うのだった。
「これがです」
「そなたの徳だ」
「帝にはなれませんでしたが」
「その徳が生きているのだ」
こう言うのだった。
「今もな」
「そしてそれを誇ることなく今も暮らしておられる」
「そなたこそ真の徳の持ち主だ」
「そう言って頂けるだけで恐悦です」
親王は業平と菩薩に微笑んで言われた。
「最早」
「そうか、ではな」
「これからもそう思われて下さい」
「人々が喜んでくれているならいい」
「それで満足であるのなら」
「その様に」
こう言って微笑むばかりであられる、菩薩に願い人々に漆の技を伝えてもらった親王の話は今も残っている。だが親王は極楽に置いてもそのことを誇られていない。実に素晴らしいことではないかと思いここに書かせてもらった、少しでも多くの方が読んで頂けるなら幸いである。
親王の祈り 完
2023・5・12
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