第一章
[2]次話
親王の祈り
文徳帝の御代のことである。
天下で漆のことが問題になっていた、兎角だった。
「どうも上手くいかぬ」
「採ることも塗ることも」
「器にそうすることも」
「全く上手くいかぬ」
「上手くいけば実に見事であるのに」
「それがどうしてもな」
「よく出来ぬな」
こう話すのだった、そしてだった。
その話は朝廷にも入り帝の第一の皇子であられる惟喬親王柔和でかつ聡明そうなお顔立ちで気品に満ちたこの方は言われた。
「ふむ、今天下は漆で悩んでいるな」
「左様です」
「何かとです」
「上手く出来ないので」
「それで、です」
「ではだ」
親王は周りにも言われ述べられた。
「私がお願いしよう」
「といいますと」
「どうされるのですか」
「この度は」
「うむ、嵐山の法輪寺に入りな」
そうしてというのだ。
「御仏にお願いしよう」
「漆のことで、ですか」
「それが上手く出来る様に」
「そうなる様にですか」
「そうする、あの寺のご本尊にな」
その仏にというのだ。
「虚空蔵菩薩にな」
「そうして頂けますか」
「虚空蔵菩薩は素晴らしい御仏です」
「ではその御仏にお願いされ」
「天下の漆のことをですか」
「確かにして頂こう」
こう言われてだった。
親王は嵐山に下られそこにある法輪寺に入られた、そしてそこに籠られ一心不乱に漆についてのあらゆる技が見事になる様に願われた、すると。
十一月十三日になると親王の御前に穏やかな黄金色の光を放つ仏が出て来た、親王はご自身の願われている場に座られたまま仏に問われた。
「貴方様はまさか」
「虚空蔵菩薩である」
仏は自ら名乗った。
「この寺の本尊を務める」
「そうですか」
「親王、そなたのことはずっと見ていた」
菩薩は優しく微笑んで答えた。
「天下の漆の技の為にずっと願っていたな」
「はい、それが上手になればです」
親王は菩薩に答えて言われた。
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