第一章
[2]次話
漆龍
日向国の米良今の宮崎県児湯郡に伝わる話である。
この地のある村に漆?の兄弟がいた、彼等は日々山に入って漆を集めていた。
「漆はかぶれるけれどな」
「わし等は元々かぶれないしな」
「それにずっと触っていて何ともなくなった」
「有り難いことだ」
兄の安佐衛門四角い顔で小太りの彼も弟の十兵衛胡瓜の様な顔でひょろ長い彼もそれぞれ言った、そしてだった。
いつも兄弟で山に入って仲良く仕事をしていた、その中でだった。
この日も山に入って漆を取っていると安佐衛門はうっかりして山道で足を滑らせた。
「おっと」
「おい兄貴気をつけろよ」
後ろにいた十兵衛はすぐに彼に言った。
「山だからな」
「ああ、うっかりしたらな」
「それだけで死ぬぞ」
こう兄に言うのだった。
「それは兄貴もわかってるだろ」
「この仕事してるからな」
山に入るそれをというのだ。
「だからな」
「まして隣の山の奥は火を吐く龍がいるそうだ」
十兵衛はこのことも話した。
「だからわし等は隣の山の奥には行かないが」
「山は獣も化けものもいるしな」
「そうだ、気をつけろ」
「そうだよな」
兄弟でこんな話をした、そしてだった。
安佐衛門は滑った後何もないか自分の身体を見ているとだった、あることに気付いてそれで言った。
「しまった、漆採りの道具を落としたぞ」
「何っ、言わんこっちゃない」
「身体は無事だがな」
「川に落ちたんじゃないのか?」
十兵衛は咄嗟に自分達の左手にあるそれを見て兄に言った。
「まさか」
「そうか?じゃあな」
「ああ、川に入ってな」
「ちょっと探すか」
「そうしような」
兄弟で話してだった。
すぐにそれぞれ褌だけになって川に飛び込んだ、鬱蒼と茂った山の中にあるそこに入ってであった。
川の底にある安佐衛門の漆採りの道具をすぐに見付けた、だが。
二人は同時に川の中にある別のものを見付けた、それで一旦川から顔を出して驚いた顔で言い合った。
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