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称名寺の楓
第二章
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「はじめて見る方です」
「そうなのですか」
「御仏に誓って」
「はい」
 こう玄上に答えた。
「こうした方は」
「実は私がです」
 女は畏まって言ってきた。
「このお寺の楓でして」
「そうなのですか」
「冷泉様に歌を返したのも」
 それもというのだ。
「実はです」
「貴殿ですか」
「そうなのです」
「そうでしたか」
「はい、あの時は歌の様にです」
 自身が詠ったというのだ。
「青葉のままでいました」
「そうでしたか」
「歌に詠まれて嬉しく」
「あの歌の通り退かれたのですね」
「そうさせて頂きました」
「そうでしたか、それでなのですが」
 玄上は楓の精にあらためて問うた。
「この度何故出て来られたのですか」
「貴方様の前にですね」
「それは何故でしょうか」
「それは貴方様の読経があまりに素晴らしかったので」
 それ故にとだ、楓の精は玄上に答えた。
「ですから」
「それでなのですか」
「はい、お礼に舞をです」
 読経のというのだ。
「したく参上しました」
「そうでしたか」
「それでなのですが」 
 あらためてだ、楓の精は玄上に尋ねた。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「そうした申し出でしたら」
 欲、金や色、権勢や口にするものではない。玄上は徳と学のある仏門の者としてそういったものは避けていた。だが。
 そういったものならと微笑んで応えた、そのうえで言った。
「お願いします」
「それでは」
 楓の精は頷いてだった。 
 そのうえで舞を舞った、それは玄上だけでなくこの寺の者達も観た。それは明け方まで続いてだった。
 それが終わった時には誰もが恍惚となった、楓の精は舞を終えると玄上達に一礼して楓の中に戻った。そこまで見届けてだ。
 玄上は寺の者達にだ、魅了された顔で述べた。
「まことにです」
「素晴らしい楓ですね」
「歌を詠い舞を舞うとは」
「いや、そうした楓がこの寺にあるとは」
「冥利に尽きます」
「これからも大事にして下さい」
 玄上は寺の者達に話した。
「あれだけの楓は」
「はい、そうさせて頂きます」
「末代まで」
「是非共」
 寺の者達も約束した、その彼等に見送られてだった。
 玄上は寺を後にし都に戻ってこの話を聞いて寺に来た為相に詳しいことを話すと為相は満足してここでも詠った。
 この楓は昭和四十年まであったが今はない、だがこの楓と同じ種類と思われる楓を平成十年に植えた。
 この楓は早くに色が変わり他の楓が紅になる頃には枯れているという、それを見て人々はあの青葉楓だと言っているらしい、鎌倉から昭和まであった青葉楓が生まれ変わってまたこの寺に入ったのであろうか。


称名寺の楓   完


              
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