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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影  その2
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米国経済界の陰謀は、彼の脳裏に焼き付いていたからだ。
「貴様も自動車の輸出関連で手ひどい扱いを受けたから知っていよう。
間違いなく米国議会は、急速な電子工業化を進める日本を危険視する。
BETA戦争で疲弊して力を落とす欧州と比べて、無傷の日本の産業界。
これは、だれの目から見ても、脅威であることは明らかだ」
 恩田は、マサキの言う通りだと思った。
それよりも、なぜ、まるで過去の出来事を見てきたように話すのかは気になった。
「量産を度外視した極小半導体なら、極端な話、研究室でも出来る。
だが、ある程度の品質で量をそろえるとなると、企業も工場も必用だ。
経済関係の役所の援助もなくては、外圧に負ける」
マサキは、おもわず苦笑をたたえた。

「策は、ないわけではありません」
恩田は、そういうばかりで結論を濁した。
「どういうことだ?」
「今の殿下と対立している五摂家に、崇宰(たかつかさ)家というのがございます。
その崇宰の当主のお力を借りて、役所の裏口から手を回すというのはいかがですか」
「どんな方法を」
 今の恩田の一言には、マサキもおもわず生唾を飲み込んだらしい。
じっと、その顔を睨むように見て。
「危険な事を言うが、くだらない冗談ではあるまいな」
「いやいや」
と、恩田は正面のマサキを向いたままで。
「もし、計略をほどこすとすれば、それ以外に手はないと考えられます」
「だが、いかに良い策があるとは、五摂家とあっては、殿上人(でんじょうびと)だ。
どうして、近づくことさえできるだろうか」
「木原先生は真正面に過ぎます。
帝都城も、五摂家も世間のうち。
抜け目ない海外商社などは、崇宰(たかつかさ)様といえば、庶民以上にお話もよくわかり、うまい商売さえしております」
「商売を」
「はい、それも東南アジア向けなどという小さい商売ではありません。アメリカ関係です。
そのほか、崇宰様を通してなら、どんなことも実現する。
そうと見て、何かと思惑を抱く輩は、伝手を求め、縁故をたどるありさまでして」
「なるほど」
「そこで、そうした崇宰様であれば、これは近づく方法がないでもない。
また、いつかはきっと、この計画のためにもなるものと考え、とうに道をつけておきました」
「では、貴様が直々に崇宰の所に行ったのか……」
「いいえ、裏で脚本を書く者は表には出ません。
それに、これからの筋書きもありますし」
 マサキのやりくちは、その陰謀も行動も、人にやらせて見ているというふうだった。
胸には疑問を抱いていながら、判断と注意だけを与えるに止まっていた。
どんな場面においても、腹のなかのより大きな欲望はいつも忘れていなかった。


 恩田の陰謀は、まもなく、その影響を城内省まで及ぼし始めていた。
彼への
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