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冥王来訪
第二部 1978年
迫る危機
慮外 その1
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トラハヴィッツ中将だった。
薄い灰色をした両前合わせの上着に、濃紺のズボンという将官用礼装。
 胸には、従軍経験を示すブリュッヘル勲章と祖国功労勲章、カール・マルクス勲章。
そして、最高位の勲章である民主共和国英雄称号をつけて。
 シュトラハヴィッツに寄り添うようにして、三人の違う軍服を着た男たちが続く。
彼らは、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキアと、それぞれ社会主義国の将軍であった。
 
 壇上の大統領は、シュトラハヴィッツの姿と認め、余所行きの笑みを浮かべた。
シュトラハヴィッツに歩み寄りながら、
「わざわざ来てくれたのかね……」
シュトラハヴィッツは彼の方を見やって、不敵に笑った。
「ええ……」
シュトラハヴィッツの脇にいたポーランドの参謀総長は、しげしげとその人を仰ぎ見ながら、
「大統領閣下、この場をお借りして、どうしても発表したいことがございましてね……」
「公表だと……」
 大統領の反応といえば、意外に、あっさりだった。
壇上のシュトラハヴィッツに向けて、万雷の拍手が鳴り響く。 
「ただ今、ご紹介にあずかりました。
ドイツ国家人民軍地上軍中将のシュトラハヴィッツでございます。
本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。
思えば、1945年――私たちの青年時代は、世界大戦の真っ盛りでしたが、心は砂漠のようでした。
しかし、あれから30年以上の歳月がたち、緊張緩和の兆しが見え始めました。
これも、ひとえに先進諸国の首脳の皆様方の努力の賜物と思っております」
シュトラハヴィッツは壇上から室内を見やって、深々と一礼をした後、
「この度、我々4人が発起人となり、
新たな地域協力機構『東欧州社会主義者同盟』を結成、旗揚げすることに相成りました」
 各国の首脳は呆気にとられて、シュトラハヴィッツの顔を見る。
東欧諸国の将軍たちは、会心の笑みを漏らした。
「何だって……」
「冗談だろう!」
 その反応に満足したのか、シュトラハヴィッツは不敵の笑みを浮かべる。
目を細めて、出席者たちを見やった。
「党派を問わず、ソ連のしがらみに捉われない純粋な友好・協力関係をもとめた新機構です」
聴衆が動揺した瞬間、ポーランド軍の将軍が一歩前に出て、宣言した。
「我らの狙いは、将来のEC加盟を目指して、ヨーロッパ統合の進展を目的したものです」
 反社会主義を掲げる西ドイツ国会議員たちは、一斉に壇上に走りこむ。
それは、会場の警備が動くよりも早かった。 
「や、やめさせろ」
素早い身のこなしで、西ドイツの国会議員たちが襲い掛かってくる。 
「降りんか、このド百姓が!」
 男たちが繰り出すアッパーカットをよけながら、ポーランド軍の将軍が叫ぶ。
「貴様ら、礼儀知らずにもほどがあるぞ」
 
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