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冥王来訪
第二部 1978年
迫る危機
慮外 その1
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服……
たかが二十歳にも満たない小娘に、憎悪されたところで、怖くはない。
愛などと言う移ろいやすい感情で、国家や政治を見る夢見がちな少女の戯言など……
取るに足らん話よ」
 まっすぐに美久の目を見つめるマサキ。
それだけで話は終わらない感じだった。
「しかし、あの女の知性……、それに裏付けられた政治的信念と教養の高さ。
利口でずる賢く、その上に(おとこ)()きのする体を持つ良い女だ。
シュタージもKGBも、欲しがるわけよ。
放っておけば、俺を殺しに来るやもしれぬな……」
 美久はマサキからの本心の告白を受けてもとりわけ驚く様子を見せず、いつも通りの表情だった。
余りの冷静な態度に、マサキは失笑を漏らしてしまうほどだった。
「だが所詮は、一人の女よ。
ベルンハルトとの情愛におぼれさせ、奴の泡沫(うたかた)の 夢とやらに酔わせて置けば……
この俺に背くような真似は、しまい……」
その言葉の端々から、美久はマサキなりの優しさである事を感じ取った。
「それに辱めて情婦などにしても、あの女の心の中にあるのは常にベルンハルトの事ばかり……。
毒まんじゅうを喰うほど、飢えてはいない。
自らの心の渇きをいやすために溢れるほどの情愛に溺れるような女などは俺の配下としても使い勝手が悪すぎる。
故に、俺はあの女をあきらめたのさ。
既に次元連結システムの子機を与えた時点で、彼奴(あやつ)らの活殺は自在に出来る。
今更、何を恐れようか」
「ええ」
 感心するようにつぶやく美久の前で、自分だけが興奮しているように思える。
一層、マサキの羞恥心に似た気持ちを、高ぶらせる結果になった
「世に美しい花なら、いくらでもあろう……。
己が手を傷つける薔薇(ばら)手折(たお)った所で満足する程、俺の心は浅くはない。
毎夜夫と肌を合わせ、睦言(むつごと)を漏らす自由を与えてやったまでよ……感謝ぐらいしてほしい物よ」
 美久はマサキの歯に衣着せぬ物言いに、思わず頷いてしまう。
その様を見ていたマサキの瞳は、妖しく光った。

 マサキと美久がベランダから戻ると、宴もたけなわであった。
軽く彩峰を揶揄った後、白銀たちと酒を酌み交わす。
 まもなくすると、ドイツ大統領が演壇に上がり、閉会の辞を述べ始めた。
「僭越ながら、閉会のご挨拶をさせていただきます。
本日はお忙しいなか、各国首脳の皆さま方にお集まり下さり、誠にありがとうございます。
本年も無事、このような先進国首脳会議を開くことができたこと、心より感謝申し上げます」
 万雷の拍手が鳴り響く中、会場の隅に置かれた席から一群の男たちが演壇に向かう。
その瞬間、閉会の言葉を読み上げる大統領の表情がにわかに曇った。
 男たちの先頭を歩くのは、大社交服姿(ゲゼルシャフト)のシュ
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