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冥王来訪
第二部 1978年
迫る危機
慮外 その1
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に、不敵の笑みを湛えながら、
「……言うな、美久。
あのような薄幸の美少女の悲しむ姿……見るのは忍びない」
「明らかな罠と分かっていながら何故、それほどまでに執着なされるのですか」
 苛立つように、美久はまくし立てた。
自分でも、なぜそんな言葉を言うのか、訳が分からない。
言っている美久自身が、困惑するほどに、唐突に出た言葉であった。
「本当に、不甲斐無い!」
 一旦、口から出た負の感情は、独り歩きを始めた嫉妬心は、もう止まらない。
そんな心が自分にもあるのかと怪しみながら、いよいよ切なさを募らせていた。
 マサキは、紫煙を燻らせた後、タバコを握る右手を額に乗せる。
不意に目をつむって俯きながら、会心の笑みを漏らした。
「フハハハハ、執着は、男の甲斐性(かいしょう)よ」
 いつの間にか邪険な雰囲気になる二人。
周囲の彩峰たちは、置いてきぼりになっていた。 
 白銀が意味ありげに、美久へ目配せをする。
「氷室さん……」
美久は鬱陶しそうに、白銀へ答えた。
「白銀さん、これは私と木原の問題です。
どうぞ、ご心配なく」
 そして、いうなりこらえきれず、美久は一人でせかされるように部屋を後に知った。 
取り付く島もなく長い髪をたなびかせ、部屋を出ていく美久の後ろ姿を、マサキは振り返って目で追う。

 マサキは、大広間を出ていった美久の事を追いかけた。
シャウムブルク宮殿の庭で、一人で歩いてく彼女の姿を見つけるなり、 
「美久、俺の話も聞いてくれ」
「よしてください、今更言い訳などとという女々しいことは……」
美久が振り返るより早く、右手をつかむ。
「いいから、ちょっと来い」
そういってからマサキは、来た道を帰っていった。
 まず二人が入ったのは、誰もいない2階のバルコニーだった。
握っていた美久の腕を放すなり、マサキが切り出した。
「なあ、美久。
この俺が、女遊びにうつつを抜かしている色きちがいにみえるか。
無論、あんな珠玉の様な女性(にょしょう)に惚れたのは事実だ。
だが、それとて策の一つよ、保険を掛けたにすぎん」
少しおびえたような上目遣いを向け、美久は尋ねる。
「え、それは……」
 マサキは、茶色の長い髪の彼女の顔を、じっと見つめていた。
なにかに(かわ)いている唇が、その激しい胸の高鳴りに耐えているさえ、思わせる。
「俺をBETA退治にケジメが着いた今、一番危険な存在は何か。
この木原マサキの存在よ。奴等は必ず俺を殺しに来る」
マサキは言葉を切り、タバコに火をつける。
「この俺が鎧衣や綾峰の前で、我を忘れて、色道におぼれる様をみせた。
その理由は、真の敵と戦うためよ」
美久は表情を変えず、マサキに訊ねた。
「既にソ連も見る影もございませんが……国際金融資本とて」

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