第一章
[2]次話
パイロットの心得の一つ
山崎光政は八条航空の多パイロットである、この仕事に就いて二十年になるベテランと言っていいパイロットだ。
長方形の顔でオールバックにした黒髪、太い眉に細い強い光を放つ目に薄い真一文字の唇を持っている。背は一七六程で引き締まった身体である。
ベテランだけあってパイロットとしての技量は問題ない、だが彼はいつもそれ以外のことも念頭にあった。
「いいか、俺達は旅客機のパイロットだからな」
「それで、ですね」
「お客様のことを考える」
「どんな人でもですね」
「トラブルを起こさないならな」
それならというのだ。
「それでだ」
「どんな民族、宗教、人種でもですね」
「大切なお客様で」
「そう思って接しないと駄目ですね」
「子供だお年寄りだといって馬鹿にするな」
決してというのだ。
「俺達の飛行機に乗ってくれたらな」
「それで、ですね」
「どんな人もお客様ですね」
「そうですね」
「どんな身体でもな」
障害があろうと関係ない、いつもこう言っていた。
そして実際にだった、山崎がメインパイロットを務める成田からアンカレジ経由でニューヨークに行く便にだ。
一人の少女が両親に付き添われて乗り込んだ、その娘は。
「右目が見えないのか」
「そうみたいですよ」
服パイロットの佐藤大学若い顔立ちで面長の顔で黒髪を奇麗にセットした長身の彼がコクピットで言って来た。
「どうも」
「そうか、じゃあアテンダントの娘達にはな」
「その娘にはですね」
「安心して乗ってもらう様にな」
右目が見えずともというのだ。
「してもらおうか」
「障害があってもですね」
「いつも言ってるだろ」
こう佐藤に言うのだった。
「お客様は誰でもな」
「満足してですね」
「空の旅をしてもらうってな」
「満喫してもらうんですね」
「だからな」
その少女もというのだ。
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