第二章
[8]前話
「いいわね」
「そんなことするか」
「そうよね、あなたは」
「それで家長って威厳があるっていうのがな」
「あの糞親父とか戦前みたいに」
「あったな、それで俺はな」
翻って自分のことを話すのだった。
「そういうのはな」
「威厳はないのね」
「それでいいのかって思う時があるけれどな」
「別に威厳なくていいでしょ」
妻あ夫にあっさりとした口調で告げた。
「そんなの」
「なくていいか」
「あなた今あのキャラのこと糞親父って言ったわね」
「文句なしにそうだろ、どれだけ子供いじめてるんだ」
「ちゃぶ台ひっくり返したしね」
アニメでのことで原作ではしていない。
「威厳があるというか」
「本当に戦争であの親父だけ死んでいたらな」
「日本はもっといい戦後迎えられたわね」
「そうだよな」
「あれは毒親だから」
「ああなったら駄目だな」
「そうよ、それで威厳ってね」
妻は首を傾げさせて言った。
「必要?家族と向かい合ってやることやっていったら」
「いいか」
「そうじゃない?」
夫に問うた。
「結局は」
「それもそうだな、そもそも俺自分が偉いとかな」
「考えなかったでしょ」
「何処が偉いんだ」
自分のというのだ。
「しょっちゅうトイレ行きたいって慌てる奴がな」
「漏らしたりとか」
「やばいというかちょっと、って時がな」
「あるわね」
「そんな奴の何処が偉いんだ」
「そう思うならよ、あなたはちゃんと家族といつも向かい合ってやることやってるから」
そうだからだとだ、妻は夫に言った。
「それで充分よ」
「威厳はいらないか」
「そうじゃない?」
「それもそうだな」
夫は妻の言葉に頷いた、そして風呂が自分の順番なので入った、その跡でビールを飲んで一服した。その姿には威厳はなかった。しかしその彼を見る妻の目は暖かいものだった。
家長の威厳 完
2023・8・20
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