第九十話 欲情の自覚その九
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「実はね」
「梅毒のせいですか」
「そう言われてるしね」
「そうだったんですね」
「ニーチェがおかしくなったのも」
知能喪失そして発狂して精神病院で亡くなっている。
「そうだっていうし」
「あの哲学者の」
「本当に死ぬから」
「梅毒も怖いんですね」
「吉原でも多かったのよ」
遊郭ではそれは当然のことであった、遊女達はこの梅毒に訛に不衛生な環境の中での結核等があり平均寿命は極めて短かったのだ。
「これがね」
「そうですか」
「だからね」
「梅毒にも注意ですね」
「エイズも怖いけれどね」
それと共にというのだ。
「梅毒もね」
「怖かったんですね」
「そういえば」
理虹がここで言った。
「背中空いてるドレスって」
「あれは梅毒でないっていうね」
「証でしたね」
「そうよ、背中に斑点がないことをね」
梅毒のそれがというのだ。
「見せる為のものだったのよ」
「そうでしたね」
「それで出て来たから」
「お洒落だけじゃなかったんですね」
「そうよ」
これがというのだ。
「その頃から梅毒ってね」
「死ぬってわかっていたんですね」
「治療もあったけれど」
ペニシリンが開発されるまでにもだ。
「凄い荒療治だったのよ」
「どんなのだったんですか?」
「熱病にかかったり水銀使ってたのよ」
店長は今度はかな恵の質問に答えた。
「そうだったのよ」
「水銀ですか」
「そうよ」
「それって」
「危ないわよ」
店長はかな恵に話した。
「わかるでしょ」
「中毒になりますよね」
「お薬どころかね」
「水銀って猛毒ですよ」
「けれど治療には使えたから」
梅毒のそれにだ。
「昔はね」
「梅毒になるとですか」
「水銀治療もね」
「あったんですね」
「そうなのよ、シューベルトもね」
この音楽家もというのだ。
「やってたのよ」
「あの人梅毒だったんですか」
「ええ、何か家庭教師先のお嬢さんに恋をして」
「あっ、失恋して」
「それで女中さんか誰かと恋愛関係になって」
そうしてというのだ、シューベルトの恋愛は彼が敬愛していたベートーベンのそれと同じ様に報われないものばかりだった様だ。
「そこでね」
「梅毒になったんですか」
「それで斑点も出来て」
梅毒特有のそれもというのだ。
「治療して」
「水銀使ったんですね」
「それで中毒になって」
そうしてというのだ。
「亡くなったそうよ」
「そうだったんですか」
「どうもね」
「死んだら意味ないんじゃ」
富美子はその話を聞いてどうかという顔になって言った。
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