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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その4
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「どうした、小娘」
「どうか、父を救ってほしいのです」
「外人の俺にそんな話を頼みに来たとみると、政府関係者。
それも事務次官級か、あるいは局長級。課長職以上か。
さしずめ、どこかの省庁(やくしょ)に出入りする木っ端役人ではなさそうだな」
当のグレーテルよりも、この話は、カレルの気色を、妙にざわめかせた。

「シュタージに、西ドイツの金が流れているって噂を流すんだ。
嘘だってかまわない」
そう聞くと、カレル少年は色を失った。
「この国に西ドイツの金が入ってきているのは事実だ。東独政府の全職員が感づいている。
小娘、お前の父も例外ではない」
 聞くうちに。
グレーテルは唇を白くし、その姿も、石みたいなものに変った。
「西側と対峙している国が西の金で回っているって、知れ始めたら、この国は動かなくなる。
党が、政治局が、声を()らしたところで終わりだ」
 まさかと、信じられない気もしつつ、体のふるえは、どうしようもない。
「1000年以上の伝統を持つ、誇り高きドイツ人だろう。
外国の乞食じゃないことを証明されるまで、簡単に怒りは収めまいよ」
マサキの話す勢いに、二人は固くならざるをえなかった。
「党と政治局は、シュタージを使ってまで、そのことを証明せざるを得なくなる。
そこに隙が生まれる。こちらから仕掛けられる」


 カレル少年は、いやな顔をして、
「さ、流石、冥王と呼ばれる男……木原マサキ」
マサキはそれを機に、ベンチから立ち上がる。
「俺も、こんなしみったれた国で、死にたかねえんでな」
そういって、彼は不敵の笑みを漏らし、その場を辞した。
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