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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その4
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のお役所の事情で、書類と政治宣伝のみであった。
 事態が変わるのは、ホーネッカーの登場である。
シュタージと手を結んだホーネッカーは、先進的な政策をとり、ソ連から距離を置くウルブリヒトを危険視し、追放した。
その際、ウルブリヒトが肝いりで作った環境省は有名無実化され、1968年から公開されていた環境報告書は、1974年にシュタージが管理する国家機密となった。
 そして一番の理由は東西ドイツ基本条約である。
東ドイツが独立国として認められた。
そう考えたホーネッカーは、環境政策を外交の道具として取り扱うのを止めた。
 西ドイツからの施し金も、その施策を後押しさせたのは間違いない。
だが、当時は東西ドイツの経済的発展は急務だったのも大きい。
 同じ敗戦国で海外からの資源を輸入する日本が環境庁を厚生省から分離独立させたのは1971年である。
西ドイツの連邦環境庁が設置されたのは、1974年。
1973年のオイルショックを受けてであった。
 本格的に活動をするのは1986年のチェルノブイリ原発事故を受けての事であった。

 この事を見ても、ドイツ人というのは立派なお題目ばかりを立てて、実現する能力が低い。
ドイツ民族の大言壮語の癖を直さない限り、ナチズムが再度支配するであろう。
一人マサキは、ドイツ人の頑迷さに、あきれ果てていたのであった。

 マサキは、ふとカレル少年に尋ねた。
「一番の環境問題は、何か知っているか……」  
「それは褐炭の使用と、深刻な地下水汚染、未処理の工業化用水の河川流出と思っています」
「そんなことは、大事を前にして、些事にしかすぎん」

「でも、わが国で気管支ぜんそくが増えているのはご存じでしょう。
児童の約半数が、何かしらの呼吸器に疾患を抱えていると……」
「ああ」
「俺が些事と言ったのは、そんなものはSEDをぶっ飛ばせはどうにかなる。
しかし、それより深刻なのは、BETA戦争における、ソ連の核の連続使用による放射線被害だ。
少なくとも中央アジアの放射能汚染は、セミ・パラチンスクの実験場の数倍にもなろう。
あとに残されるのは、数世代による遺伝障害だ」
 マサキは、遺伝子工学の研究者でもあった。
20世紀初めに実施された、米国の学者マラーが行った、放射線実験の事が頭をよぎる。
放射線により遺伝子異常をもたらしたショウジョウバエの実験から、遺伝障害が数世代続いていくことを思い起こしていたのだ。
生物実験の推定から、両親のどちらかが1シーベルト以上の被爆をすれば、子孫に0.2パーセント以下の確率で遺伝的障害がおこるとされた。
 先の大戦において、広島や長崎で原爆が投下された際は、その様な障害は、日米両政府の疫学調査で、確認されなかった。
だが、深刻な就職や結婚差別が起きたこ
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