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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その3
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 彼女は心外で、ならないらしい。
いまも、マサキが、湯気の立った茶を飲まずに紫煙を燻らせている、その席で、
「察するに、不都合な事でもございましたか。何かお心当りでも?」
 と、彼の胸へ、自己の不満をたたいていた。
「うるさい」
 マサキは、怒気を、青白く眉にみなぎらせた。
「もういうな。
無駄にこうしているのではない。おれにもここへ来ては考えがあることだ。
……それより、アイリスディーナ、後ろを閉めて、こっちへ寄れ」
アイリスディーナはいわれるまま、観音開きの大戸をしめて、恐々とすこし前へすすんだ。
「久しぶりだな」
「お元気そうで……」
としていたものが、どうしても、いまだに、どこかの恐れにある。

「アイリスディーナ」
 マサキは、急に、相好(そうごう)をくずしてみせた。
といって、女の細かな用心は解けようもないのである。
「お前の事を、今日、軍の情報センターで見かけた。
男と一緒に歩いていたが……
あの男、ずいぶん親しそうだったな。一体どういう関係なんだ」
 アイリスディーナは、恥ずかしそうにマサキを見やった。
「えっ、カッツェさんですか。
昔からの知り合いで、色々と親交のある方ですよ」
マサキは、その言葉を(いぶか)った。
「親交、どんな……
お前があんな楽しそうにするのは初めて見た」
アイリスディーナは、頬を赤く染めて、躊躇いがちに答える。
「それは、貴方が、私の事をよく知らないからでは……」
「確かにそうだな……」
(俺は、アイリスディーナの事を驚くほど知らない……
俺の知らぬ男と、親しげに遊んでいたとしても……)
 マサキは、沸々と、腹が煮えてたまらない。
落ち着こうとすればするほど、嫉妬は、逆に込み上げてくるばかり。
「俺は、カッツェという小童に負けたくない」
「何を……カッツェさんは兄の昔からの友人です。」
 白々しいとは憎みながらも、憎み切れぬ程なやさしさ。
いつか、マサキも、ややなだめられていた。
 その上、つい恨みを、はぐらかされもする。
また、何となく気もおちつき、アイリスディーナの人柄までが、これまでになく優雅に思えた。
「俺は、カッツェに嫉妬している。
アイリス、俺はこれほどまでにお前に惹かれたのだ」

 沈黙したまま、見つめあう二人の耳元に壁時計の音ばかりが聞こえてきた。
マサキの口から思わず、ため息が漏れる。
「何としても、お前の心のうちへも、木原マサキという男を焼付けねば、一生、妄執は晴れぬ。
アイリス、これほど男からいわれたら、もうどうしようもあるまい」
 こうなると、その眼には、アイリスディーナの女の美のみ映ってくる。
彼の心にある邪悪なものが、白雪を思わせる彼女の美に、ひそかな舌なめずりを思うのだった。
「兄の友
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