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ツキノワグマも怖い
第一章

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                ツキノワグマも怖い
 北海道から長野に転勤してきてだ、大林敦素朴な顔立ちで黒髪を短くしている一八〇を超える長身でラガーマンの様な体格の彼はこんなことを言った。
「同じ種類の生きものでも違いますね」
「生きものが?」
「はい、北海道の方が大きいですね」
 上司の築地幸正一六〇位の背で髭のない鯰の様な顔で髪の毛が前からなくなっている彼に対して言った。
「それもかなり」
「ああ、鹿とか狐とか」
「狸もですね、特にです」
「熊だね」
「はい、熊はです」
 この生きものはとだ、大林は築地に話した。
「北海道は羆で」
「凄いよね」
「もう滅茶苦茶です」 
「大きいね」
「大きくて」
 そしてというのだ。
「怖いんですよ」
「狂暴だね」
「滅茶苦茶恐ろしい話もあって」
「ああ、北海道じゃ皆知ってるっていう」
 築地もそれはとだ、大林と一緒に蕎麦屋で蕎麦を食べつつ話した。職場の昼休みの際の昼食である。
「三毛別の」
「明治の開拓の頃の」
「あの話はわしも知ってるよ」
 五十代になったばかりの顔で二十代の若者に言った。
「とんでもないね」
「あれは島民する場所がなくて」
「身体が大き過ぎたんだね」
「もう気性が荒くなっていまして」
「余計に狂暴になっていて」
「はい」
 そしてというのだ。
「小さな開拓村を襲って」
「大勢の人が犠牲になったね」
「その村の家なんてあれだったんですよ」
 大林はざるそばを食べつつ真顔で話した。
「吹けば飛ぶ様な」
「粗末な家で」
「無茶苦茶寒い北海道で」
「寒さも凌げない様な」
「そんな状況で」
「熊もだね」
「簡単に突き破って入ってきて」
 家の中にというのだ。
「とんでもないことになったんですよ」
「そうだったね」
「いや、この話はです」
 築地に真顔のまま話した。
「北海道で知らない人いないです」
「恐ろしい話としてだね」
「羆嵐とも呼ばれてます」
「あれだね、大きな羆が死んだら」
「嵐、吹雪が起こるって言われてまして」
「実際その羆が仕留められて」
「起こったらしいんですよ」
 まさにその時にというのだ。
「嵐が」
「そうらしいね」
「いや、羆は怖いですよ」
 大林は真顔のままだった、見ればざるそばが彼の大柄な身体から見ると実に小さく可愛い位である。
「本当に」
「日本最大の猛獣だね」
「最強の。ですから」
 築地にさらに話した。
「こっちの熊見ますと」
「ツキノワグマだね」
「動物園で見まして」
 そうしてというのだ。
「小さいと思いました」
「実際に大きさが違うね」
 築地も否定しなかった。
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