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関の大杉
第三章
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「そうでしたが」
「その名前の力士もな」
「いませんか」
「村の者にもな」
 年寄りはさらに言った。
「関の大杉という者はな」
「いませんぁ」
「うむ、しかしな」
 それでもとだ、年寄りは五平に話した。
「木でな」
「木、ですか」
「山に古い杉の木があってな」
 そうしてというのだ。
「その木が関の大杉という」
「そうなのですか」
「若しかして」
 年寄りはさらに言った。
「その木のことか」
「ううむ、ではです」
 五平はその話を聞いてだ、年寄りに言った。
「これよりです」
「山に入ってか」
「その杉の木のところに行きます」
「それではな」
 そう聞いてだった。
 五平は年寄りに山に案内された、山は村のすぐ傍にありそこに入るとすぐにだった。
 樹齢千年は優にあると思われる巨大な杉があった、年寄りは五平にその杉の木を見せてそのうえで話した。
「この木がな」
「関の大杉ですか」
「そうだが」
「そうですか、そうなると」
 ここでだ、五平は。
 朝陽との話を頭の中で反芻した、そうして言った。
「彼はこの木だったか」
「いや、この木はずっとここにあったが」
「魂がです」
 木の中にあるそれがというのだ。
「出ていてです」
「そうしてか」
「わしと旅をしていました」
「そうだったか」
「そうでしたか、いやこうしたこともありのですな」 
 五平はその木、関の大杉をまじまじと見ていた、すると。
 ふとだ、巨木の枝のうちの一本が人の頭程の高さの場所に生えていた、その枝は小さいものであり。
 先にだ、袋があり。
 ふと手に取って見て中を見るとだった。
「何と、朝陽さんに貸した銀がある」
「銀?西の方では銀を使っているな」
「大阪の商売人はそうです」
 五平は年寄りに答えた。
「それであちらで商いをしている時は」
「お前さんも銀を使っていたか」
「それで朝陽さんにも銀を貸したのですが」
「その銀をか」
「今袋の中を見れば」
 それこそというのだ。
「貸しただけです」
「あったか」
「間違いない、貸した銀を返してくれた」
 五平はこのことを確信した。
「そうしてくれました」
「席の大杉がか」
「はい、返すと言ってです」 
 そうしてというのだ。
「ここに来たらそうするとのことでしたが」
「実際にか」
「そうしてくれました、木がそうしてくれるとは」
「中々面妖な話であるが」
「いや、木も義理を忘れぬ」
「そのこともわかる」
 そうしたというのだ。
「実に深み入る」
「そうした話であるな」
「まことに」
 こう年寄りに言った、そして五平は銀を受け取り関の大杉に確かに受け取ったと述べてそうしてだった。
 商いを終えると苅田を後にした、宮城
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