第二章
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「原田様には原田様のです」
「事情があったか」
「そうでした」
「ううむ、歌舞伎それに浄瑠璃ではな」
五平は大坂でも見たそういったものの話から述べた。
「原田様がな」
「仁木弾正となってな」
「まるで妖術使いの様な悪者になっていますが」
「それがか」
「実はです」
「原田様のか」
「理がありました」
「そうだった」
「左様です」
こうした話をよくしてくれた、そうして奈良までの道中楽しく過ごし。
奈良に着いたがここでだった。
朝陽は自分の財布を見てから困った顔になってだ、五平に話した。
「すいません、落としたかすられたか」
「路銀がなくなったか」
「今気付けば」
「ううむ、それは困ったか」
「非常に」
ここでだ、朝陽は。
五平を見てだ、そのうえで彼に言った。
「それでなのですが」
「うむ、路銀をじゃな」
「貸して欲しいのですが」
こう頼み込んだ。
「必ず返すので」
「困った時はお互い様、それにだ」
さらにだ、五平は朝陽に笑って答えた。
「ここまで一緒に旅をした縁、ならな」
「貸して頂けますか」
「遠慮は無用、儲けた分もあるしな」
自分の商いでというのだ。
「それをな」
「貸してくれますか」
「これだ」
笑顔でだった。
五平は朝陽に銀を多く渡した、それを受けてだった。
朝陽は深々と頭を下げた、そのうえで彼に言った。
「お礼は必ず」
「いや、渡すが」
「そういう訳にはいきませぬ、お借りすると言いましたので」
「だからか」
「必ず返します、わしは力士の名は朝陽といいますが」
朝陽は五平に確かな声で話した。
「元の名を関の大杉といいます」
「関の大杉か」
「はい、苅田の方に来られた折にはです」
「その名を出せばか」
「今お借りした分を返せますので」
だからだというのだ。
「是非お来し下さい」
「そこまで言うのなら」
それならとだ、五平も頷いてだった。
それからも旅を続けやがて都で丹波に行く五平と美濃に行く朝陽は別れた、二人は手を振り合って別れた。
それから数年後五平は東北で商いをして。
苅田の関村に来た、ここでだった。
彼は朝陽が関の大杉と名乗ったことを思い出した、それで村の者達に尋ねた。
「ここに関の大杉という者がいると聞いたが」
「関の大杉?」
「力士で」
「力士でか」
村の歳よりはそう聞いて首を傾げさせた。
「この村にも力士がおるが」
「では」
「いや、そんな名前の力士はおらん」
「力士の四股名を朝陽といいました」
ここで五平はこのことも話した。
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