第一章
[2]次話
関の大杉
宮城県の苅田にある話である。
昔ある商人ここでは五平とする中年の丸々と太った男が上方においてばったりとだ。
この地に生まれたという力士ここでは朝陽とする力士らしい立派な体格の若い男と縁があって大坂の団子屋で会ってだ。
何かと話をしているとここで五平は朝陽に言った。
「実はわしはこれから奈良に行くのだが」
「それはわしもです」
朝陽もそうだと答えた。
「これからです」
「奈良に行くのか」
「はい、旅で」
「そうなのか」
「いや、奇遇ですな」
朝陽は団子を次から次に食いながら五平に応えた。
「それはまた」
「全く以てな」
「ではこれも縁で」
ここで会って話をしているのと同じ様にというのだ。
「奈良にはです」
「共にか」
「行くか」
「そうしましょうか」
「そうだな」
五平も団子を食べつつだった。
朝陽のその言葉に頷いた、そうしてだった。
二人で奈良に向かい道中連れだって進み何かと話して共に食って飲んだ。話を聞くと朝陽の言葉は仙台の方の訛であり。
そちらにやけに詳しかった、しかもだった。
「ほう、仙台に最初に入られたか」
「松平の殿様はその時は伊達と言われましたが」
「あの方は実際に右目が見えなかったか」
「幼い頃は見えていたのがです」
「言われている通り病でか」
「見えなくなったのです、疱瘡で」
「そうだったのか」
五平はその話を聞いて頷いた。
「よく言われているが」
「それで伊達騒動ですが」
「あれか」
「この話は歌舞伎で言われている様な」
そうしたというのだ。
「原田様だけが悪いか」
「そうは言えぬか」
「何かとです」
自分より年上の五平に丁寧に話した。
「入り組んだ事情があり」
「ああなったか」
「そうでした」
こう話すのだった。
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