第一章
[2]次話
感染症は痛快か
世界中がその感染症に悩んでいた、各国は対策に必死でありワクチンが開発され打たれ錠剤の開発も行われていた。
この感染症を知らない者は世界にいないとまで言ってよかった、マスクに手洗いも徹底されていた。
超大国も小国も対策に必死であり世界経済にも深刻な影響を与え犠牲者も多くそれこそ千万単位で出ていた。
だがそんな中で日本の毎朝新聞の記者である筑紫勝一やや面長で白髪頭の皺の多い小さな目と唇を持つ初老の貧相な身体つきの彼は。
社内で笑ってだ、こんなことを言った。
「面白いね」
「面白いって何がですか?」
「何がどう面白いんですか?」
「いや、今の感染症のことだよ」
若い記者達にこう言うのだった。
「実にね」
「いや、何が面白いのか」
「全くわからないんですが」
「皆マスクして手洗いして」
「ワクチン打ってです」
「経済への影響も深刻で」
「物凄く大変なんですが」
若い記者達は首を傾げさせて言葉を返した。
「それの一体何処が面白いのか」
「世の中大変ですよ」
「あれやこれやで」
「滅茶苦茶なんですが」
「だからその滅茶苦茶になってる状況がだよ」
それこそがとだ、筑紫は答えた。
「面白いね、どんなに強い人権力者でもだよ」
「感染症は怖い」
「対策に必死になる」
「その状況がですか」
「面白いんですか」
「そしてある意味ね」
筑紫はさらに言った。
「痛快だね」
「痛快、ですか」
「どんな強い人権力者も怖い」
「必死になる」
「そんな感染症がですか」
「うん、こんなものもあるんだね」
こう言うのだった、筑紫は本気で思っていた。だが。
その話を聞いていた記者広田住夫一七〇程の背で小さな目と平たい口に短い黒髪に真面目そうな表情の彼から話を聞いた彼の友人織田雄吾太い眉にスポーツ刈りの頭に長身のサラリーマンをしている彼は眉を顰めさせてそのうえで記者に対して思わず聞き返した。
「その人何考えてるんだ」
「お前もそう思うか?」
「世の中こんなに大変なことになってるんだぞ」
こう記者に言うのだった。
「それでな」
「何がどう面白くてだよな」
「痛快なんだ」
こう言うのだった。
「一体な」
「俺もそう思うけれどな」
記者は今はプライベート、完全に会社から離れているのでこう言えた。
「けれどな」
「それでもか」
「その人はな」
筑紫、彼はというのだ。
「そう言ってるんだよ」
「毎朝、お前の勤務先ってな」
友人はここで深刻な顔になって述べた。
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