第三章
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ゴッホは弟の自分への愛情が薄れた、薄れると思い絶望し衝動的にだった。
拳銃自殺を計った、助かったが簡単な手当てを受けても立って歩いてだった。窓辺に座った状態で心配するテオ達に言った。
「もうこれでいいんだ」
「いい筈ないじゃないか、兄さん死ぬよ」
「死んでもいいよ、僕は皆がよくなる道を選んだし」
「絵はどうなるんだい」
「もう千点も描いたしね」
自分を心配して泣きそうな顔になっている弟に笑顔で話した。
「充分だろう、糸杉の絵もね」
「兄さんが好きだった」
「うん、その絵もね」
それもというのだ。
「描き切ったし」
「あの木は」
「命だよ、以前僕が言った通りにね」
「死の木だからだね」
「死があるから命があるんだ、その命が燃える」
「兄さんはあの木をいつも火みたいに描いていたね」
「そうだよ、僕の糸杉は燃える命の炎だったんだ」
「緑色の」
「木は火に弱い、けれど命だから」
彼が見た糸杉の木はというのだ。
「それを描いたんだ、そしてね」
「その糸杉の木もなんだ」
「描ききったよ、じゃあ僕はこのままね」
弟に微笑んで話した。
「死ぬよ、ずっとこうして死にたいと思っていたんだ」
「窓辺に座って」
「窓の景色を見ながらね、これでいいんだ。僕は命も充分描き切ったよ」
この言葉を残してだった。
ゴッホは窓辺の景色を見ながら死んだ、そこからは糸杉の木が見えていた。その木は静かにそこに立っていたが彼には燃える様に見えていた。
テオはその兄の死を見届けて妻に言った。
「色々言う人がいても」
「あなたにとってはよね」
「いい兄さんだったよ、かけがえのない」
妻に言ってだった、そのうえで。
彼もまた窓の外の糸杉を見た、すると自然にこう言った。
「命だね、燃える様な」
「あなたもそう思うのね」
「うん、凄くいい木だよ」
今はこう言った、そのうえで兄を見た。その顔が満足そうだったので彼はようやく兄が何故糸杉の木を愛したのかわかったと思った。
だがテオは兄の死をきっかけに衰弱していき世を去ったが。
妻にだ、死の床で話した。
「兄さんの隣にね」
「いたいのね」
「うん、糸杉が好きだった兄さんのね」
「そうなのね」
「そしてね」
それでというのだった。
「ずっと一緒にいて話したいよ。命のことをね」
「最後の審判の時まで」
「そしてそれからも一緒にいられるなら」
それならというのだ。
「話したいよ」
「そうなのね」
「糸杉の木を見ながらね」
今彼の目には妻の顔と燃え上がる様にくねっている兄が描いた糸杉の木が見えていた、その木も見つつ世を去った。そして今も兄の隣にいるのだった。
愛する木 完
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