暁 〜小説投稿サイト〜
もう伝統工芸
第四章

[8]前話
「むざむざ売るよりな」
「置いておきたいか」
「そんな工芸品みたいに貴重やと言われたら」
 それならというのだ。
「もうな」
「売りたくなくなったか」
「そや、あの店員さん言うてたやろ」 
 秀長の顔見知りである彼がというのだ。
「ブリキのおもちゃなんて今やとな」
「伝統芸能レベルやてな」
「そこまでのもんやと言われたら」
 それならというのだ。
「そのこともあってな」
「売りたくなったか」
「ああ、もうあの世に行くまでな」
 孫に微笑んで話した。
「持っていきたいな、それでわしがあの世に行ったら」
「その時はか」
「お前かお前に子供が出来てたらな」
「その子供に上げるか」
「そうするわ」 
 こう言うのだった。
「その時はな」
「そうなんか」
「それでな」
 さらに言うのだった。
「これからもな」
「そのおもちゃはやな」
「大事にするわ」
 箱の中に入れたそれをテーブルの上に置いて見つつ話した。
「これからも」
「そうするか」
「そういうことでな、ほなな」
 ここまで話してだ、祖父として孫に話した。
「休日やしのんびりしよか」
「僕はそやけど祖父ちゃんはもう毎日やろ」
「ははは、もう年金暮らしでな」
「それやったら毎日やろ」
「それもそやな、まあそのことは置いておいて」
 それでと言うのだった。
「お茶を飲んでぽんせん食って」
「そうしてやな」
「ゆっくりしよか」
「そうするか」
「ああ、今はな」
「ほなな」
 孫も祖父の言葉に微笑んで応えた、そうしてだった。
 お茶を煎れてぽんせんも出した、おもちゃは祖父の部屋の部屋の押し入れの中に収めた。そのうえで。
 その二つを楽しむ、そこで祖父はこんなことを言った。
「今度は船場でな」
「鰻丼やな」
「それ食いに行こうな」
「そうか、ほなな」
 孫もそれならと頷いた。
「今度の休みはな」
「鰻や」
「それ一緒に食べに行こうな」 
 お茶とぽんせんを食べつつだった、そうした話をしてだった。
 二人で今度は鰻丼の話をした、ブリキのおもちゃはその後ずっと大事に収められた。祖父の大事な思い出のものとして。


もう伝統工芸   完


                  2023・2・12
[8]前話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ