第二章
[8]前話
「それならあんたがよ」
「動いて」
「そしてね」
「先に行くべきね」
「そうよ、いいわね」
「私からなのね」
「知ってるなら動けるでしょ」
恋愛をというのだ。
「それならね」
「私からなのね」
「待ってるだけじゃ駄目よ」
「女からも仕掛ける」
「そういうことよ」
私に強い声で言ってきた、そうしてだった。
私も頷いた、そのうえで。
次の日彼と一緒に飲んだ、洒落たバーでそうしている間私はずっと彼女が言ったことを思い出していた。
ずっとその時を待っていた、飲んでお話をしていても頭の中はそればかりだった。酔っていてもそれは変わらず。
二人共かなり酔ってお店を出た、それから彼に駅まで送ってもらったが。
ここで彼にさよならと言われるその時にだった。
私は仕掛けた、彼がさよならを言ったその直後に自分から近寄り。
そしてだ、その唇に自分からキスをした、まるで襲う様にして彼を抱き締めてそうした。
それは一瞬だった、だがその一瞬のキスが終わってから私は彼に微笑んで言った。
「またね」
「あっ、うん」
彼はいきなりキスされて戸惑っていた、その戸惑いを隠せず私に言葉を返した。
「またね」
「ええ、また一緒にね」
私から言って別れた、私はこの時はキスをして満足した。この時はそれでよしとしてだった。
自分から手を握って抱き締めて彼に仕掛けて主導権を握る様になった、その上で一緒に過ごす様になっていき関係を深めて遂には結婚までした、全てはその時からだった。さよならを言われてもそれで終わらない様にした、それが本当によかった。彼女の言う通りにしてと思っている。恋愛はさよならまた今度で終わらない、相手がそう言っても自分は仕掛けることが出来てそこでどうするか、そのことを心から思いながら夫となった彼そして二人の間に生まれた息子と暮らしている。そこで終わらせるものじゃないと。
さよならじゃ終わらない 完
2023・1・29
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