松菜ハルト
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「前も言ったけど……あたしは、今のあたしが美樹さやかから変わったつもりはないよ」
「こっちこそ、前にも言ったよ……人間のままファントムになるなんてありえない。松菜ハルトって人間も、美樹さやかって女の子も……もう……」
「あたしは美樹さやかの記憶もあるし、自分でもファントムであること以上に、美樹さやかって人間だと思っているけど?」
「違うんだよ」
ハルトは言い切った。
赤い眼になったハルトは、目を細め、自らの顔にファントムの紋様を浮かび上がらせた。
「俺にも、松菜ハルトの記憶はあるし、時々人間だって思うことだってある。でも違うんだよ……」
ハルトは首を振りながら、その体を変貌させる。
灰色の頭部、黄色の頬が特徴のドラゴンの頭部。
それは、ハルトが人間ではないことを残酷なまでに事実の証明となっていた。
「俺は、松菜ハルトじゃない。松菜ハルトは、俺が生まれたと同時に死んだんだ」
「見滝原に来たのは、松菜ハルトの皮を被ったファントムだったと」
さやかは顎に手を当てながら頷いた。
「そんなシリアス背景あるのに、よく大道芸人なんてやってたね。ちょっとしたサイコパス?」
「それは……」
ハルトは口を噤んだ。
やがて、その重い口を開く。
「ファントムだったら分かるでしょ? 俺たちは、人が笑顔になると気が滅入る。逆に、不幸な人間や絶望した人間の傍にいると高揚する。もうファントムになって半年近くになるんだ。人の笑顔が、苦痛になることがあるって分かるでしょ」
「つまり……」
「自分を否定するためだよ」
ハルトは腰を曲げて再び小石を拾い上げる。そのまま川へ近づき、投げる。
水切りしていく石は、今度は川の反対側まで届いた。
「人の笑顔を見ると、俺は苦しい。でも、自分でそれが楽しい、気分がいいって思うことにしている。そうして、自分がファントムであることを否定しているんだ」
「……」
さやかは目を細めた。
「なるほどね……そして、自分でも多くのファントムを倒してきた……グレムリンを強く否定してたのは、アンタ自身が……」
「俺が人間じゃないからだよ。だから、君が人間だとも、俺は思わない」
「……そ。まあ、アンタがあたしをどう思おうが勝手だけど……」
さやかは自分の手を見下ろした。
「ファントムが元の人間のままであることはありえない、か……」
さやかはそれを何度も反芻させながら、静かに川へ歩み出した。
「さやかちゃん?」
「あたしは、自分がファントム、マーメイドである以上に美樹さやかだと思ってる。でも、こう思うのはあくまであたしというファントムが美樹さやかの記憶を持っているからなの?」
「……そんなの、分からないよ」
ハルトは唇
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