松菜ハルト
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どのように人々に思われていたのかを知ったのは、地上に戻って少し経ってからだった。
地上に強制的に戻されたあと、周囲が響の応援をしているのに困惑していたのを思い出した。
「あと、トレギアと戦ってた時も、俺はファントムの力を使った」
「トレギア……あの仮面野郎のことか」
そう。
宿敵、トレギアが見滝原ドームに現れた時。その場にいたアイドル、氷川日菜を守るためには、変身では間に合わないことがあった。幸い日菜からは煙に隠れていたことと、それ以上にショッキングなことがあったから、彼女の記憶には残らなかったようだ。
そしてもう一度。
「そうだよ。だから、俺の手には、トレギアの命を奪った時の感覚が、まだ残ってる」
トレギアへトドメを刺した時。ハルトの右腕は、ドラゴンの腕となっていた。生身では成し得ない破壊力をもって、トレギアの心臓を貫いたのだ。
___君たちの絆は……簡単に壊れる。他でもない、君の手によって___
あの時、トレギアは最期に、ハルトへそう言い残した。この怪物の力を見て、そう断じたのだろう。
ほんの翌月にそれが現実になるとは、ハルトも夢にも思わなかった。
「だからかな……」
「ん?」
「コヒメちゃんは俺の正体に薄々勘付いていたみたいだけど」
コヒメ。
人との共存の可能性を持つ怪異、荒魂。
人の心を持つ彼女は、人の心の動きを察せられるようだった。
だからコヒメは、ハルトの事を「なんか変」だと言ったのだろう。
「ふーん……」
さやかは、やがてレイピアをハルトの首筋から外した。彼女のレイピアからは、滴っていた水が飛び散り、レイピアそのものも水滴となって地面に散っていった。
「それじゃ、お仲間たちは誰も気付かなかったんだ」
「そうだね。俺からも、誰にも言わなかったから」
だが、一度。もしかしたら、怪しまれてしまうと危惧してしまう時があった。
ファントムには、味覚がない。
だから、可奈美と体が入れ替わった時怪しまれないかと不安だったが、彼女はそれとハルトの正体には繋がらなかったようだった。
「つまり、人間のフリをしていたと……あたしと同じじゃん」
さやかはそう言って、レイピアを掻き消す。
彼女はさらに、その顔にファントムの紋様を浮かび上がらせる。
「ねえ、魔法使いさん。それじゃ、アンタが人間じゃなくなったのって、何時なの?」
「俺が……俺ってファントムが生まれたのは、十年前……松菜ハルトが十歳の時だよ」
十歳。
それが、松菜ハルトがドラゴンになったときのことだった。
正確に言えば。
「その時が、松菜ハルトが……亡くなった時」
「……」
さやかは、その言葉に目を細めた。
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