第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い その3
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ェッケルン課長の失態を手ぐすねを引いて、待っていた。
そして、今回の事件を大いに利用しようとしたのだ。
上手くいけば、グレーテルと、その父であるイェッケルン課長を貶めることが出来る。
成績優秀なグレーテルを逆恨みする生徒や父兄も多く、彼女は狙われていたのだ。
また、イェッケルン課長は生真面目すぎることで、各所から恨みを買っていたのも事実だった。
当人たちの知らないところで、大規模なシュタージの工作が、今、仕掛けられようとしていた。
その夜。
失意のうちに、イェッケルン課長は帰宅の途に就いた。
彼は、茫然と歩いていた。
ミッテ区の共和国宮殿から出て、プレンツラウアー・ベルク区のわが家のほうへ。
こう歩いていても、人ごこちのない程、彼は、憔悴しきっていた。
「お帰りなさい」
わが家へはいって、椅子へ坐っても、まだ考えていた。
「グレーテルの事で、学校から通知が来ております」
彼の妻は、彼が坐るとさっそく、一煎の薄い茶と、一通の手紙を前へ持って来た。
手紙は、学年主任からで、ひと眼見ても、ことの重大さが、すぐ知れた。
内容は以下のとおりである。
『成績優秀な貴兄のご息女ですが、何やら芳しくない噂を聞いております。
過激なブルジョア思想にかぶれた少年と交友し、いかがわしい場所に出入りしていると伺っております。
後日、警察や教育委員会と協議し、今後の対応を検討したいと考えております』
妻が、前にいるのも知らぬように、課長は、ぶるぶると身を震わしながら、二度も三度も読みかえしていた。
余りに興奮しているので、前にいた彼の妻のほうが、間が悪くなって、もじもじしていた。
手紙を畳みながら、彼は、にがりきって、独り言を大きくつぶやいた。
「この話は本当なのかね!」
「はい」
そういって、妻が耳打ちをしてきた。
「役所のうわさで聞いたんだけど……どうもそうらしいのよ……」
「西のヒッピー思想にかぶれた小僧と、グレーテルが遊んでいるだと……」
彼には直ぐ思いあたることがあった。
ここ数年来、危険な思想をもちつづけているヒッピーの活動家に、娘がたぶらかされたのではあるまいかということだった。
経済発展を最優先にする東独では、環境問題の活動家はヒッピーと同一視された。
「もしもだけど、うちのグレーテルがそういう輩に誑し込まれて、駆け落ちしたら……」
「その時は、俺の方でシュタージなり、警察なりに、そのヒッピー野郎を訴えてやる」
と、呼吸も荒く、妻を叱ったが、
「グレーテルは、意固地だが、根は正直な娘だ。
そんな大事な一人娘を、西のブルジョア思想にかぶれた屑野郎にくれてやる理由もない。
あの子は、田舎の役所の簿記でも務めながら、いい男の目にでも止まってくれれば……」
彼
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