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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い その3
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の頭上に振ってきた。


 父を救うために、木原マサキに会いに行く。

 純情な少女の執念ともいえる、グレーテルの計画。
この計画には、致命的な欠陥があった。
それは、彼女がマサキの顔を知らないと言う事である。
 
 この時代の東ドイツには東洋人は少なかった。
BETA戦争で、東欧から帰国してしまったのも大きい。
 なにより、9年前の中ソ対立によって、ソ連と中国の関係が悪化したのが原因だった。
1960年代に多数いた、中国人留学生や外交官は皆、帰国してしまった。
 また、出稼ぎに来ていた北ベトナム人や北朝鮮人。 
彼らのような親ソ衛星国の国民の事を、現政権は怖れた。
 ソ連の煽動工作を怖れて、政府は帰国命令を下した。
 つい先ごろ、ドイツ国内から、退去するように命じた議長名の政令を発布したばかりであった。

 その為、東洋人は、東ドイツ全土からほとんどいなくなってしまったのだ。





「まさか、ベルリンの繁華街を歩いて探そうっていうのかい」
グレーテルは、金縛りにあったように、足は動かず、声も出なかった。
「図星だね……」
 そういいながら、カレルはグレーテルの周りをゆっくりと威圧的に歩き続ける。
グレーテルは、暗然と、眼をくもらせたまま、なすすべを知らなかった。
「日本人、いや外国人観光客のたくさん来る場所なら心当たりがある」

 カレルの計画は、実に簡単なものだった。
学校から帰った後、二人でペルガモン博物館に行こうと言う事だった。
 グレーテルがさらに衝撃を受けたのは、マサキに会うまで毎日続けるという途方もないものだった。


 グレーテルは、日々変化していく自分にかすかな不安を覚えはしたものの、カレルとの秘密の関係には満足していた。
その至福と絶頂は、何物にも代えがたいものに感じてならなかった。
 だがそんな秘密の関係は、露見せずにはいられなかった。
いつまでも、一人密かに恋に浸り続ける事は出来なかった。


 今日もなお36万人の人員を誇る諜報機関KGB。
それに勝るとも劣らない東ドイツの諜報機関シュタージ。
 約20万人の職員の大半は、嘱託の医師や看護婦、料理人や炊事婦、ボイラー技士や整備工だった。
また首都を防衛するフェリックス・ジェルジンスキー衛兵連隊や高速道路警備隊などである。
 実際のスパイ作戦に従事する者は少なかったが、それでも9万人近い情報提供者を抱えていた。
これは人口1600万の東ドイツでは、異様な人数だった。
 また地方の監視活動は、KGBの国内保安局の手法をまねて、網の目の様な防諜網が敷かれていた。
 
 ゆえに、カレル少年とグレーテルの夏休みの逢瀬は、シュタージの地方局からすでに本部に上がっていたのだ。
シュタージは、イ
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