第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い その2
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ックポイント・チャーリーの検問所のほうで、2,3発の銃声がした。
入国手続きをする旅行者が騒ぎを起こしたのかと、ゾーネはその方角に車を走らせた。
見ると、ひとりの旅行者が、国境警備隊員に何事かわめいている。
警備兵が、短機関銃を空に向け、威嚇射撃をしても、なお前へ進みだそうとしている。
案内役の将校は腰からピストルを抜き出し、
「言う事を聞かない奴は、さっさと逮捕するんだ」と、怒鳴り、ピストルを男に向けた。
「待ちたまえ」
ゾーネが止めた。
彼は、揉めている男が、東洋人であることを認めたからである。
「ここへ連れてきたまえ」
かくしてマサキは、事情を知らない警備隊に危うく逮捕されるところを、事なきを得た。
ゾーネの前に引き立てられてきた。
マサキは、しばらく一人のシュタージ将校を見つめていた。
それは彼の知らない顔であった。
実際は、今年9月のベルリン訪問の際に会ったはずなのに、アイリスディーナの気を引くのに夢中で、他の者には全く注意を払わなかったのである。
一方ゾーネは、目の前の男が、アイリスディーナやユルゲンに言い寄った男であることを知った。
脇に立つ警備隊長が、ゾーネに囁いた。
「この男は、用心した方がよさそうですね」
マサキは、高みからものを言った。
「貴様らは、何者だ」
傍まで来ている米軍憲兵隊に聞こえるようにドイツ語ではなく、英語だった。
「シュタージ中央偵察総局の者です」
と、ゾーネは、威を張るような顔もせず、畏まって、
「木原マサキ先生とお見受けされますが、身分を確認できるものは……」
急に丁寧な言葉になり、彼の差し出す証明書を受け取った。
そして念を入れて、調べたが、
「いいでしょう。貴殿は今よりご自由になさってください」
と、気味の悪い笑みを浮かべていた。
「ところで、木原先生とやら。
アイリスディーナ嬢のお味は、お気に召されましたかな」
マサキはふとゾーネに対して、冷やかな感情を覚えた。
「婦人の権利拡大をうたう社会主義の東ドイツでは、その様に女を見るのか……」
「貴方は西側の人間だ。それにいろいろな浮き名も聞いております」
マサキは正直にいって、はやくその問題から話をそらしたいような顔をした。
「女を己がものにしたなどと、喧伝するのは、10代の小童の戯言。
のぞき見公社の職員とはいえ、そこまで詮索するのは無粋というものよ」
と、マサキは少しも慌てずに言い返した。
ゾーネは、びっしと長靴を鳴らすと、車に乗り込み、走り去った。
マサキは、後ろから二人の男の話声がするのに、気が付いた。
そして思わず、後ろから歩み寄って来た二人の男の姿を、振り返ってみた。
男たちのしゃべっ
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