第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い その2
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だった。
個人の東ドイツ訪問客、とくに西ドイツ国民以外は、入国査証発行料、10西ドイツマルク(1978年当時、1西ドイツマルク=115円)を徴収させられる。
強制的に一対一の為替歩合で、20西ドイツマルクから20東ドイツマルクに両替させられた。
そのことはマサキをいらだたせた。
西ベルリンの銀行では、4対1の為替歩合で交換され、一般的には物価の相場から5対1で両替された。
東ベルリンに行っても、正直買うものがないのである。
東ドイツに在住しているわけではないから、商店や食料品店で買うものもないし、20マルクは使えなかった。
物価が5分の一の東ドイツで20マルクは100マルクに相当する。
一人で来て、レストランで20マルク分の食事をするのは非常に面倒だった。
物価の安い東ドイツで、10マルク分の食事をするというのは、大変な事だった。
アメリカ統治地区とソ連統治地区の境界にある検問所、チェックポイント・チャーリー。
そこでも、マサキをめぐる一波乱があった。
「ドクトル木原、入国の目的は通産省の訪問ですか」
「ああ、そうだ」
「次官のアーベル・ブレーメに合われるんですよね。では紹介状は」
マサキは、正直、驚いた。
驚くべきことを、驚かないような顔はしていられない彼である。
「紹介状がいるのか。関係者に聞いたがそんなものは必要ないと言っておったぞ」
衛兵は鋭い眼で、マサキの激色を冷々と見ている。
「紹介状がなければ、訪問は認められません」
これは、警備兵の二度目の警告であった。
マサキは、余りの答えに、慌てた。
その顔色に示された通り、怒りに駆られて、気持ちの遣り場にどうしようもないような恰好であった。
「アーベルとはすでに約束済みだ。シュタージなり、通産省なりに電話して確かめろ」
国境警備隊を押しのけていこうとするマサキに対して、PPSH41短機関銃を向ける。
「動くな!撃つぞ」
マンドリンとして、日本人になじみの深い7.62ミリ弾を使うソ連製短機関銃。
製造から20年以上たったこの機関銃は、ソ連ですでに退役済みだが、東ドイツでは現役だった。
双眼鏡で、検問所の向こうから見ていた米軍憲兵隊は色めき立った。
ベルリンの交差点のど真ん中で起きた、白昼の事件。
しかも、非武装の旅行者に機関銃を向ける事態。
M14小銃を構えた米軍憲兵隊と、ピストルを取り出した西ドイツの警官隊が一斉に詰め寄る。
騒ぎは、東西両方の警備隊長が出てくるまでの状態になった。
米、英、仏、三軍の警備隊や憲兵隊が集まり始めた中、乗り付けたパトカーが一台あった。
現場に着いたミヒャエル・ゾーネは、車から降りると、出迎えの国境警備隊将校が応対する。
すると、チェ
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