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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その1
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ら、ユルゲンやシュトラハヴィッツは、シュタージに処刑されていただろうか。
 アイリスディーナやベアトリクスは、どんな人生を歩んだのだろうか……
そう思うと、熱い感情が、頬を伝わって落ちた。

「博士、どうなされました」
ハッと現実に意識を引き戻されたマサキは、椅子の上で居住まいをただした。
「颯爽と、支那のハイヴを攻略されたあなたのような存在があって、今の世界は泰平ではありませんか。
なにを憂いとなされるか」
 ハイムの鋭い目線は、上から振り下ろされるように感じる。
今の秋津マサトの若い肉体ゆえに仕方ないことだが、臆さず、答えた。
「将軍……」
マサキは濡れた目をあげて、断言した。
「俺に、シュタージの資金源を教えてほしい。
ユルゲンやアイリスから団欒を奪い、家庭を引き裂いた、ソ連の茶坊主。
ベアトリクスを孤独の中に押し込めて、長い年月苦しめた、邪悪な諜報機関。
KGBの傀儡から、ありとあらゆる秘密を暴きたくなってな……」
 
 その答えに満足したのか、ハイムは相好を崩した。 
目を細めて、マサキを見てくる。
「博士のご胸中、およそわかりました」
 
 シュタージファイルには、東独国民のあらゆる情報の他に、KGBとシュタージの関係、欧州の諜報網が詳しく書かれていた。
だが、その資金源に関しては、厚いベールに包まれていた。
 マサキは、美久に搭載された推論型AIを使って、KGBとシュタージの関係を洗いざらい調べた。
その過程で、中東での国際テロ支援活動や、西ドイツでの赤軍派による誘拐事件の全貌を解明した。
 それでも、シュタージの富の源泉というものには、莫大な資料からたどり着くのには程遠かった。
故に、シュタージと対立関係にある国家人民軍を頼ることにしたのだ。
 
 無論、マサキも馬鹿ではない。
シュタージファイルと、CIAからの情報提供から、KGBから警戒されている人物にあたりを付けて、近づくことにしたのだ。
 KGBから嫌われていると言う事は、こちらに協力する公算が高い。
敵の敵は、味方であるという、大時代的な手法をとることにしたのだ。

 密議を終えたマサキは、ハイムの副官の黒髪の男の案内で、作戦本部の最上階から降りていた。
副官であるエドゥアルト・グラーフが、マサキを駅まで送迎することになっていた。
 後ろを歩くマサキは、東独軍にいるアイリスディーナの事を思慕していた。
(『アイリスは今頃、なにをしているのだろうか。
こんな閉鎖された社会にいても、人を信じることのできる純粋な娘……
いつまでも放っておけるものだろうか……
前の世界の事や、二度あの世からよみがえったこと、年の差やあの娘の境遇……
そんな事よりも、純粋なアイリスに誠意を示してやるのが先ではないだろうか』
 つ
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