第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その2
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アイリスディーナと歩いていた栗色の髪の偉丈夫。
それは、兄ユルゲンの竹馬の友であるオスヴァルト・カッツェであった。
ここでオスヴァルト・カッツェその人の、人となりを、すこし詳しくいっておく必要があろう。
彼の出自はユルゲンやベアトリクスと違い、ノーメンクラツーラーではなかった。
ベルリン市内のパンコウ区にある小規模なパン屋の次男坊で、政治的には無関心であった。
性格は明朗快活で、周囲からの反応が良く、また女にもそれなりにモテた。
彼の事を、ユルゲンは総合技術学校から頼りにし、家庭内の話まで明かしていた。
そんな縁もあって、アイリスディーナが幼いころから彼女の事をよく知る人物でもあった。
カッツェ自身は、アイリスディーナが美人であることを早くから認識していた。
だが、好意は一切抱いていなかった。
兄であるユルゲンが義兄になることを嫌がっていたし、年齢が離れすぎていて、興味を持たなかったのだ。
カッツェが、アイリスディーナと歩いていたのは訳がある。
彼は自分が管理する中隊に、アイリスディーナが配属されることが決まっていたので、面倒を見ていたのである。
「アイリス、情報センターでの研修中に、呼び出して悪かったな。
早速だけど、勤務服に着替えろ」
「はい」
カッツェの指示を受けたアイリスは、急いで更衣室に向かった。
軽くシャワーを浴びてから、髪をとかして、勤務服に着替えるともう小一時間が過ぎていた。
「急いでるときに、ゆっくり着替えるとは本当に肝の座った子だね。
変わっているというか、なんというか……」
と、カッツェは苦笑した。
だが、アイリスディーナはどこまでも生きまじめだった。
彼の冗談を真に受け、恥じた彼女は、いかにも済まなそうに、俯いてもじもじとした。
そんな態度にカッツェの方が、ドギマギしてしまった。
まるで小さい女の子をいじめているような、気持ちになってしまったのだ。
カッツェはここは男らしく、先任の将校として立派に振るわねばと、自身を励ました。
「議長官邸に呼ばれるってことは、誰に会うかわからないもんな。
今のは冗談だから、赦せよ」
と、さりげなく、アイリスを励ました。
まもなく彼女は、車で迎えに来たヴァルターの傍に駆け寄った。
そして、カッツェと衛門の前で別れた。
東ドイツ国家評議会議長の官邸は、国家評議会ビルの一室に置かれていた。
シュトゥットガルトのマルクス・エンゲルス広場の南に位置する近代的な建物は、1964年に建設された。
(マルクス・エンゲルス広場は、今日の宮殿広場である)
その際、ベルリン王宮からファサードが移築され、左右非対称の外観になった。
このバルコニーは、第一次大戦終戦前
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